辞書マニアの西練馬さんが、
という素晴らしい記事を公開なさっています。
いつもながら、圧巻の分析と情報量。同業者の皆さんには、強く激しく、熱烈強烈に、断固絶対徹頭徹尾、一読をおすすめします。
オンライン辞書については、私もこれまでに何度か書いたり話したりしてきました。たとえば、旧ブログには以下の2本などがあります。
# 無料の辞書サイトでどこまでいける?
# では、有料の辞書サイトだったらどこまでいける?
今回は、西練馬さんの記事を見て私が気づいた点、私見、おまけ、蛇足などを、思いつくままに書き並べてみました。あくまでもそういうラフな視点の記事なので、基本的な話は、西練馬さんのnote記事と、私の旧ブログ記事2本をお読みください。一部にはダブる内容があったりもします。
なお、他人様のすばらしい記事に便乗しただけなので「尻馬記事」です。ちなみにこの表現は、先日亡くなった画家・安野光雅の近著
で使われていて、わりと気に入ったので使ってみました。
書きはじめたら長大な記事になってきたので、
・学習英英編
・一般英英編
・英和編
に分けることにしました。国語辞典については、西練馬さんの記事以上のことを書けるはずもないので、パスします^^;
[目次](すべて無料)
- Oxford Advanced Learner's Dictionary(OALD)
- Longman Dictionary of Contemporary English(LDOCE)
- Collins COBUILD Advanced Learner's Dictionary(COBUILD)
- Cambridge Advanced Learner's Dictionary(CALD)
- Macmillan English Dictionary(MED)
- Merriam Webster Learner's Dictionary
以下、西練馬さんのnoteと同じ順序で進めることにします。また、引用部分は、出典について断り書きがない限り同記事からです。まず、英英学習辞典から。
Oxford Advanced Learner's Dictionary
(OALD)
語釈はオーソドックスと言うか優等生的。
特徴は、このひと言にほぼ尽きると私も思います。語義も語法もひととおりきちんと確認できます。新語の採用は控え目な印象です(学習英英は全般にそうですが)。サイトは、学習英英としての機能が充実していて、しかも初見の情報をほどよく抑えて見やすくなっています。以下のようなリンクの「+」を押すと展開して追加情報が表示されます。
西練馬さんが言うように例文が豊富ですが、Extra Examplesを展開するとさらに例文が増えます。
上の例では、Oxford Collocations Dicionary相当のコロケーション情報も見られます(ただし、完全な情報を見るには有料登録が必要なようです)。
Synonymsの「+」を押すと類語情報が開きます。こちらは、
にほぼ相当する内容を見ることができます。英英の類語としては個人的にイチオシ。ちなみに、物書堂のアプリ版も出ています。
▲次の情報も重要です。
日本での書籍版発売元である旺文社が使い方を詳しく説明した小冊子を無料公開してくれています。
以前このブログでも紹介した「辞書引きのハートマンモデル」の話が、この小冊子に書いてあります。ご存じない方は、この小冊子もぜひお読みください。
そういえば、このときも西練馬さんの記事の尻馬に乗ったのでした^^;
▲ちなみに、OALDのルーツについては、私も以前、JTFジャーナルに書いたことがあります。
2016年7/8月号(通算284号)
をどうぞ。
Longman Dictionary of Contemporary English
(LDOCE)
OALDに次ぐ老舗ですが、語釈はOALDよりすっきりというのが個人的な印象です。すっきりしすぎていて、ときどきもの足りないことも。COBUILDと同じフルセンテンス定義も増えてきました。
各語がどの程度使われているかの情報を話しことば(S)、書きことば(W)で分けて表示。
と書かれているのは、たとえば以下の項に出ている |S2| と |W3| のラベルのことです。
S、Wの後にある数字は、
1 = 基本単語1000語
2 = 基本単語2000語
3 = 基本単語3000語
の意味なので、数字が小さいほど一般的ということになります。翻訳者としては、このラベルが訳語選びの基準になることがあります。つまり、こういうラベルが付いた基本語彙に、やたらと難しい訳語を付けられるか? という判断の材料にできるということです。
動詞句の詳しさは、単語によるのかもしれません。playなどではわりとたくさん載っています。
凡例がないのは私もイカンと考えます。ただ、オンラインの場合は「見ればわかる」というスタンスなのかなという気もします。 上の |S2| と |W3| などは、カーソルを置くと情報がポップアップするようになっていますし。
▲ちなみに、Longmanは英英辞書というイメージですが、翻訳して日本市場向けにした英和辞典というのも、実は出ています。
これ、編纂に柴田元幸さんも関わっているからか、他の学習英和とちょっと毛色の違う訳語が見つかることがあります(たまに、ですが^^)。
実は、Longmanのサイトはメニュー切り替えで英和辞典も選べるという作りです。これで出てくる英和の内容が、この『ロングマン英和辞典』に当たるので、おれもオンラインで使えるということになります。
▲Longmanも、JTFジャーナルの連載で取り上げました。
2016年9/10月号(通算285号)
Collins COBUILD Advanced Learner's Dictionary
(COBUILD)
このサイトは、学習英英と一般英英が一緒になっていることに、まずご注意ください。わかっていると便利ですが、気をつけないと?となることも。
このように、まずCOBUILDの情報が出てきて、上に並んでいるリンクバーから、他の情報に飛べるようになっています。
English(一般英英・英語)
American(一般英英、米語)
などです。一般英英については、次の記事「一般英英編」でも取り上げています。
フルセンテンス定義については、私もあちこちで話したり書いたりしているので割愛(旧ブログの記事でも書いています)。
オンラインには凡例がないっぽい……これを取説なしで正しく引いてもらえると思ってるのか? 本気?
西練馬さんのお嘆きはもっともなのですが、これもオンライン版だとだいぶわかりやすくなったから、ということなのかもしれません。
書籍版(CD-ROM版)時代には、たとえば不可算名詞をN-UNCOUNT、be動詞に準ずる動詞をV-LINKと示し、さらには、動詞の使い方や他の単語の共起になると
V-PASSIVE be adv V-ed, be V-ed
などという、ほとんど暗号のような表記になっていて、確かに凡例なしには使えませんでした。ちなみに、上の例を説明しておくと、
「動詞で、受動態が多く、過去分詞の前に副詞を伴う形が多い」
という意味です^^;
これが、オンライン版では、
N-UNCOUNT → UNCOUNTABLE NOUN
V-LINK → LINK VERB
となりましたし、受動態用法に関する暗号部分もPASSIVE VERBだけになり、副詞を伴うという情報などは用例に語らせるだけになりました。
それでもやはり凡例は必要です。幸い、完全に同じではないのですが、ジャパンナレッジに収録されている『コウビルド米語版英英和辞典』の凡例を見ることができます。
※たまたま凡例だけは誰でも見られますが、本体はもちろん契約していないと見られません。
▲COBUILDも、JTFジャーナル連載で取り上げました。
2016年11/12月号(通算286号)
Cambridge Advanced Learner's Dictionary
(CALD)
西練馬さんは
※あまり使ったことがありません。
とおっしゃっていますが、私はPC版もオンライン版もわりとよく使っています。デザインも、そんなに嫌いじゃないけどなぁ^^;
確かに、OALDやLongman、COBUILDと比べると学習者向けの配慮は足りないかもしれません。……てか、あれ? え? 西練馬さんは見出しをCambridge Advanced Learner's Dicionaryって書いてるけど、このサイトは学習用?
結論から言うと、内容はAdvanced Learner's相当だけど、一般英英レベルまで使えるように作ってあるみたいです。サイトには Advanced Learner'sとは書かれていませんし、書籍版(CD-ROM版)のCALD3にはない情報も載っています。
言うまでもなくUKの辞書ですが、アメリカ英語のセクションもありますし、
新語対応もそれなりに早い(下の図はZoom bomb)。
さらには、BUSINESS ENGLISHというセクションがあって、ここがけっこう私たち翻訳者には便利だったりします。
つまり、翻訳者にはけっこう便利な「総合英英辞書」的な存在だと私は考えています。
▲ちなみに、インターフェースは日本語にも切り替えられます。また、メニューで英和辞典も選べるのですが、日本語ネイティブにはとうてい使えるレベルではありません。また、メニューからは「Learner's」も選べますが、これはAdvanced Learner'sよりさらに一段やさしい内容です。
Macmillan English Dictionary
(MED)
これも、サイトにAdvanced Learner'sとは書かれていませんが、内容は学習レベルです。
西練馬さんの説明が実に詳しいので、特に付け足すことはありません。ナビゲーションがしっかり作ってあって、多義語を調べるときは特に便利です。。
豊富な用例、Thesaurusへのリンク、語義ごとのSynonymや関連語のリンク、成句のまとめ方など、学習英英としての完成度は高いと私は思っています(私がふだん使っているのは、2006年に出た書籍に付属しているCD-ROM版。Logophileで使えます)。
▲このサイトについては、ひとつ注意があります。旧ブログでも書きましたが、新語情報に関しては、読者投稿が載るようになっています。鵜呑みにはできません。
Merriam Webster Learner's Dictionary
確かに、インターフェースがちょっと寂しいかもしれませんね。私も、書籍版(CD-ROM版)のMerriam Webster Advanced Learner's Dictionary(MW-AL)のほうを使っちゃうので、このサイトを使うことはあまりありません。
また、学習向けと言える語釈ではない、という面は確かにありそうです。ただし、翻訳者として辞書を引くという使い方で考えると、COBUILDやOALDなどで語法や用例も含めてじっくり語義を探りたいという用途ではなく、ひとまずさらっと英英で意味を知りたい(が、一般英英をひくほどではない)というときは、Merriam Webster Learner's(あるいはMW-AL)に手が伸びることはよくあります。
学習向きではないが、翻訳者か常用する辞書のひとつ、とは言えます。
凡例はありませんが、これも「凡例不要の作り」ということなのでしょう^^;
▲LogoVistaから出ている『メリアム・ウェブスター英英辞典』は、Merriam Webster Advanced Learner's Dictionary(MW-AL)のことです。オンラインのインターフェースが寂しいので、基本語を調べるなら、こちらを買ってPCにインストールするのもありです。
英英学習はここまで~。