# 辞書は三省堂

昨年末、辞書引き学習のシンポジウムに参加したことは12月のうちに記事にしました。

baldhatter.hatenablog.com

深谷先生らによる今回の著書の版元である三省堂が共同主催でした。また、その直前に中学生以上向けの『例解新国語辞典 第十一版』が刊行されていたこともあって、この日には改めて

辞書は三省堂

という標語を思い出していました。

旧三省堂本店(最近なくなったほう)には、それを掲げた看板がありましたし、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%9C%81%E5%A0%82%E6%9B%B8%E5%BA%97より)

そのひとつ前の本店でも垂れ幕などを見た記憶があります。

https://jaa2100.org/entry/detail/034104.htmlより)

自分が常用している辞書のラインアップを振り返っても、三省堂の辞書には本当にお世話になっているし、「(紙の)辞書が売れない」と言われるようになって久しいこの時代に、これだけの点数を刊行し続けている。今でもこの標語は生きているなあと改めて感じた次第です(それ以外の出版社の辞書がだめだということでは、もちろんありません)。

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# 虎と豹

よくあることですが、わたしより桁違いに膨大な語彙力の持ち主である家内から、「虎と豹」にまつわる話をふたつ聞きました。

連休で家に帰ってきていた末っ子が、生まれたばかりのホワイトタイガーの子を見にいくという話から「虎の子」という慣用句の話になり、そこから家内がまず

虎の子渡し」って知ってる?

と訊いてきたのでした。

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# 当?社

受験シーズン直前のこの時期に大学受験予備校が閉鎖したというニュースが年明け早々から流れていましたが、その経営母体の倒産も報じられました。

www.tdb.co.jp

前々職で、実はこれと似たような経験をしたことがあって(ひたすら謝罪する立場でしたw)、そのことを詳しく書くつもりはないのですが、帝国データバンクのこの記事で、以下の記述が目につきました。

当社は、1983年(昭和58年)8月に設立された学習塾経営業者。国公立大学や大学医学部を志望する高校生を主な対象とした大学受験予備校「ニチガク」1教室を運営していた。

(太字は引用者)

第三者である帝国データバンクが、この会社のことを「当社」と書いていて、そうか、やっぱりこういう「」の使い方って皆無ではないのねと思った次第です。

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# 研究社『日本語コロケーション辞典』― 物書堂版が登場

日本語のコロケーションを調べるというと、すぐに名前があがるのは『てにをは辞典』でしょう。紙の辞書には珍しく人気があります。

あるいは、国立国語研究所のコーパス検索サイト(少納言、中納言、NLBNLT)も定番です*1

一方、PC上で使える電子媒体のコロケーション辞典はほとんどなく、研究社『日本語コロケーション辞典』のLogoVista版がほぼ唯一の存在でした。

www.logovista.co.jp

これ、ただでさえ使い勝手がいまいちのLogoVistaインターフェースのなかでも、残念ながら特に使いにくい印象で、これまでもほとんど紹介はしてきませんでした(現状では旧インターフェースのみ対応)。

ありがたいことに、昨年12月に物書堂アプリ版が登場し、こちらはだいぶ使いやすくなりました。さすがの物書堂です。これなら推奨辞書に加えてもいいかもしれません。

monokakido.jp

*1:ベースになっているコーパスとインターフェースがそれぞれ異なります。簡単に紹介しておくと、少納言とNLBはどちらも『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)を検索できるサイト、中納言はBCCWJも含めて他のコーパスも検索できるサイト、NLTは『筑波ウェブコーパス』(Tsukuba Web Corpus: TWC)を検索できるサイトです。

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# 定例トライアル10月号の解説補足

『アメリア』定例トライアルでわたしが担当している〈実務(IT・テクニカル)〉分野。2024年10月号では、スミソニアンの公式サイトにあったニュース文から出題しました。

www.smithsonianmag.com

こういう宇宙もののネタ、わたし自身の好物です^^;

日本のJAXAが運用した小惑星探査機「はやぶさ」も、地球帰還時にはいろいろと擬人化されたりして盛り上がりました。NASAの火星探査ミッションで活躍したヘリコプター Ingenuityも、この文中ではやや擬人化されて描かれています。

ごくごく平易な英文なのですが、実際に出題して翻訳答案が集まってみると、やはり意外なところでつまずいてしまうようです。大きなポイントについては、年末年始に届いた1月号の「講評」に書きましたが、書き切れなかった点のうち、

  • 英文解釈上の注意点
  • 日本語表現上の注意点

をひとつずつ、追加で説明しておこうと思います。原文は上のリンク先でも読めるので、以下で引用する内容はアメリア会員でなくても確認できるはずです。

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# 謹賀新年 - 2025年

みなさん、明けましておめでとうございます。

といいながら、もう三が日も終わろうという日の夜です^^;

昨年末はインフルエンザAにかかってしまい、年賀状も出していません。大掃除も、家族に任せっきりで何にもできませんでした。

それでも元日からは、例年どおり末っ子と家内がつくってくれたおせち料理でひたすら飲み食いし

昨日と今日は家族で映画に出かけたりして、まったく仕事しない3日間をのんびり過ごしました。

(初めての川崎チネチッタで、サムタイのデラックス版)

 

さて、2025年の予定はというと、いまのところ多くはありません。翻訳フォーラムのイベントは2つ決まっています。

ひとつは、先日来お知らせしている

「今さら聞けない辞書の基礎」Part 2「辞書引きライブ」

2月9日(日)です。

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当日どんな話をするか、インフルエンザで寝込んでいる間に、ネタ帳をいろいろとひっくり返していました。どうぞお楽しみに。

 

もうひとつは速報です。今年の「翻訳フォーラム・シンポジウム」、日程だけ決まりした。6月28日(土)です。

内容などの詳細は、決まりしだい、こちらでもどんどん情報を更新していきます。

 

ということで、年始のご挨拶としてははなはだ締まりがないのですが、今年もよろしくお願いいたします。

# 翻訳者にとっての「辞書引き学習」

「辞書引き学習」という指導方法があるのはご存じかと思います。深谷圭助先生(中部大学)が提唱し、国内はもちろん、海外でも高く評価されて普及しつつある指導法です。

この指導法をめぐる国際的な研究の成果がこのたび三省堂から刊行され、それを記念したシンポジウムが昨日(12月22日)開催されたので、ご挨拶も兼ねて聞いてきました。

シンポジウムは、本書の編者である深谷先生と吉川先生、神永暁さん、瀧本多加志さん(代表取締役社長)の挨拶から始まり、国内と海外(イギリス、シンガポール、インド)での活用事例が次々と紹介されました。

指導による効果はおおむね予想どおりでしたが、詳しく聞くとやはり参考になります。「和製英語であることを認識した」「類語のおもしろさを知った」「語句の多様性に気づいた」「紙の辞書ならではの発見があった」――いずれも高橋が整理した言い方――など、どれもわたしたち翻訳者が常日頃からしっかり認識しておくべき点ばかりです。こういう認識を小学生の頃からもてるって、すばらしい。辞書を引かせたあとで、先生方が工夫して実施しているいろいろなアクティビティも楽しそうで、ああいう指導を受けていたら、きっと一定以上の言語能力が身につくんだろうなあと思います。

ちなみに、「辞書引き」は Jishobiki という形でそのまま使われていますが、最近は Lexplore という英語の造語(LEXicon + exPLORE)も使われ始めているのだとか。

で、そんな教育現場の話を、ただの翻訳者が聞きにいっておもしろかったのか、と思われますよね。その話を書こうと思っています。昨日の話を聞いていて真っ先に考えたのは、

翻訳者も辞書引き学習

してみたらいい、ということでした。

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