# Oxford オンライン辞書の有料化について

告知期間はあまり長くなかった気がするのですが、Oxford Lexico サイトに、ちょっと前からこんな予告が出ていました。

LEXICOというのは、OxfordLanguagesのサイト(https://languages.oup.com/)から無料で使えたOxford系の一般英英サイトでした。電子辞書端末にたいてい収録されている『Oxford Dicitionary of English(ODE)に相当します。ODEについてはこちらの過去記事をどうぞ。

baldhatter.hatenablog.com

上のスクリーンショットをクリックすると拡大できますが、要するに8/26からは無料版 LEXICOはなくなって、Dictionary.comに移行するという内容でした。

この告知段階では、LEXICOの内容がそのままDictionary.comに移行するのかと思いましたが、結論からいうと、そんなことはありません。よく読むと、

Don't fear! Dictionary.com has all the 1) definitions, 2) synonyms, 3) grammar and writing tips you need

と書いてあるだけで、今までと同じ内容になるとはどこにも書いてありませんでした。ということで、無料で使えるODE相当のサイトはなくなった、と思っていいようです。

Dictionary.comとは何か

こちらは以前からあった辞書ポータルサイトで、あちこちの辞書の寄せ集めという点ではWeblio的存在です。ただし、
ちゃんと出典が書かれている
ところがWeblioと違います。出典サイトは、

・Random House Unabridged Dictionary
・American Heritage
・Collins

などで、項目ごとに

このような出典表記があります。上2つはアメリカ英語、Collinsはイギリス英語、いずれも信頼性の高い代表的な辞書ですから、それだけてもDictionary.comの利用価値は十分に高いだろうと思います。

そして、Oxfordの無料データが一部なりとも入ってきた形跡はありません。上の告知どおり、単に「こっちにリダイレクトされるからね」ということでした。

【9/12追記】
この記事を公開してから、Twitterでご意見をいただきましたので、若干追記します。Dictionary.comは、Random House Unabridged Dictionaryそのものではなく、専属のレキシコグラファーがいて、独自に編集しているとのこと。

Random House Unabridged Dictionaryについて

出典サイトのうちの『Random House Unabridged Dictionary』というのは、小学館『ランダムハウス英和大辞典』の元本です。この元本はもう販売されていないのですが、データ自体はこういう風に続いているのでした。ちなみに、旧『Random House Unabridged Dictionary』は、その後『Random House Webster's Unabridged Dictionary』というややこしいタイトルで販売されていました。

参考記事:禿頭帽子屋の独語妄言 side A: # Random House Websterを買ってみた

たとえば、Dictionary.comでbrilliantを引くと

1. shining brightly; sparkling; glittering; lustrous:
2. distinguished; illustrious:
3. having or showing great intelligence, talent, quality, etc.:
4. strong and clear in tone; vivid; bright:
5. splendid or magnificent:

こう書かれています(用例は略)。同じbrilliantが、『Random House Webster's Unabridged Dictionary』のアプリケーション版(ハードカバーを買うとCD-ROMが付いてくる版があった)では、こんな風になっています。

そして、Dictionary.comでは、『ランダムハウス英和大辞典』の元本を引ける、というのは知っておいていいと思います。なぜかというと、『ランダムハウス英和大辞典』には日本語版独自の編集が入っているので、どこまでが元本の記述か知りたいこともときどきあるからです。『ランダムハウス英和大辞典』は、専門語も含めて語義の分類が細かいという特長があります。でも、元本と見比べてみると、元本での分類はそこまで細かくなく、日本語版が独自に語義分類を分化していることもあります。

LEXICOはどうなった?

では、今までLEXICOとして使えていたODE相当の内容はどうなったかというと、こちらのサイトに移動して有料となりました。

premium.oxforddictionaries.com

トップページを貼るとこんなタイトルになってしまうみたいですが、英語(UK、US)のほか、西・読・仏・伊・露・中・葡・アラビア語も引ける総合サイトです。そして、こちらは£16.66/年のサブスクリプションサービスです。今のレートで2,700円くらい。英辞郎ProやWeblioより安いくらいなので、利用価値は十分にあると思います。

考えてみれば、これだけの内容を今までまったく無料で提供してきたことのほうがすごかったと思います。サブスクリプション全盛の今、これも辞書ビジネスのモデルのひとつだろうと思います。

【9/12追記】
こちらも、Twitterでご意見をいただきましたので、若干追記します。上のリンク先(Oxford Premium)は、今回できたわけではなく、以前からある有料サイトです。Lexicoがこちらに移行したというより、Lexicoサービスが終わって、同じ内容はこちらの有料版のみになった、という言い方のほうが正確なようです。

Oxfordのその他の辞書は?

LEXICOつまりODEは、語義の排列を歴史主義ではなく頻度主義にするなど、現代的な編集方針で運営されている一般向け英英辞典です。Oxfordといえば、いわゆる『オックスフォード英語大辞典』が有名ですが、そう称されるのは、伝統的な編集方針を貫いている Oxford Englsih of Dictionary(OED)のほうです。

baldhatter.txt-nifty.com

ありがたいことに、サブスクリプション料金はこの記事の頃より下がって、今は£110となりました。

また、Oxford Advanced Learner's Dictionary(OALD)に当たる学習英英辞典は、引き続き無料で利用できます。

www.oxfordlearnersdictionaries.com

一般英英は有料化し、学習英英は無料で提供する。これは、実に納得できるビジネスモデルという気がします。

それを考えると、小学館さんも、コトバンクで精選日国を無料提供したりしていないで、Oxfordのビジネスモデルを参考にした辞書ビジネスを展開してみてもいいのではないだろうか……という気がします。