西練馬さんが、note でこんな記事を公開なさっています。
今さら言うことでもありませんが、西練馬さんや ながさわさんたち、自称「辞書マニア」のみなさんの辞書に関する造詣には本当に圧倒されます。
この記事をお書きになったきっかけは、『博士と狂人』の映画公開と、それにまつわるトーク番組の内容なのですが、そこから辞書(というか辞書引き)に関する見事な論考を展開なさっています(「辞書マニア」というのはもちろん謙遜の名称であって、私たち素人から見ると、本当に辞書のプロなんだなあと思います)。
そして、翻訳者(と翻訳学習中の方)に必読なのは、特にこの記事の「ハートマン・モデルから辞書アシスタントを考える」以降です。
ハートマンモデルとは何かと言うと、人が辞書を引くまでのプロセスを7段階に分けて整理したモデルです。西練馬さんの記事だけでもいいのですが、ハートマンモデルに関しては、こちらがおすすめです。
OALD9活用ガイド 辞書編(山田茂)
本来は 、Oxford Advanced Leaner's Dictionary 9th を旺文社が出しているバージョン、『オックスフォード現代英英辞典 第9版』に購入特典としてダウンロードできる付録です。
PC上でOALDを使えるので、ぜひ購入してこの付録も読んでほしいのですが、実は検索すればどなたでもダウンロードできます。旺文社さんごめんなさい~ではあるのですが、そのくらいご紹介したい冊子なのです(ので、URLは貼りません)。
ちなみに、DVD-ROMが付属するOALDはこの第9版までで、第10版ではオンライン版とアプリ版の使用ライセンス(4年間)が付属するという形に変わっています。
ハートマンモデルの7ステップを、旺文社版小冊子の言い方で紹介するとこうなります。
- 問題の認識
- 問題となる語の特定
- 辞書の選択
- 見出し語の選択
- 語義の選択
- 有用な情報の抽出
- 情報の活用 (『OALD9 活用ガイド』旺文社、2015年より)
私も、あちこちで辞書引きのガイドになるような話はしているのですが、私の話は、このうちの 3 と 5~7 だけだったと改めて気づかされました。というより、翻訳者や翻訳学習中の方に向けて私が何か助言できそうなのはその部分だけだろうと思います。
翻訳をするうえでいちばん問題になるのは、たぶん 1 と 2 です。西練馬さんも、このステップ 1 についてこう書いていらっしゃいます。
「わかってない」と自覚しなければ、始まらない。にもかかわらず、実際には「わかってない」場合でも、問題が認識されずに素通りされることが多い
「見慣れた語句、わかっていると思う語句ほど要注意」ということを、翻訳に関わる人なら分かっているはずなのですが、それでも漏れてしまうものです。自分でもそういうことはありますし、授業などでも「あーっ、そうか」という反応はとにかく多い。
つい先日の授業でも、at the same time という慣用句について "意外" な発見をしていただいたばかりです。
西練馬さんの記事にあるようなアシスタント機能がそのうち出てくるのかもしれませんが、当面、私たち翻訳者(と翻訳学習中の方)は、
原文のどこを疑ってかかるか
という勘どころを磨いていくしかありません。
この勘どころを身につける特効薬はないと思います。いろいろ読んで訳して経験を積むしかない。
それでも、すこし前に書いた記事、baldhatter.hatenablog.com
こちらに挙げたような本が、少しはその補助になります。 また、こういう本を何冊か読んでいるうちに、辞書で(再)確認すべき勘どころも少しずつ身についてくるかもれません。