辞書は "用語集" ではありません。
辞書を見て、ただ何となく、あるいは自分で "しっくりくる" という理由で "訳語"を選んでいるうちは、辞書をきちんと活用しているとは言えません。
これは、Weblioさんを引く場合でも同じです。というより、Weblioのような辞書ポータルを使う場合は特にそうでしょう。
たとえば、今後の見通しについて書かれている文脈にbleakという単語が出てきたとしましょう(これだけではコンテキスト情報が十分とは言えないかもしれませんが)。Weblioさんでbleakを引いてみます。いえ、最近はもう、いちいちWeblioのサイトを開かなくても、ググるだけで上位の候補にWeblioが出てくるんでしたね。
この検索結果を見て、「今後の見通しについての文だから……」と、いちおう文脈を考えながら、「寒い」「吹きさらしの」はさすがに違うよな、「寒々とした」はちょっといいかも、「荒れた」「寂しい」はダメだろう、「厳しい」はいいんじゃないか、「わびしい」は違う、「もの悲しい」は、お、なんか語感がいい……
そんな思考経路で訳語を選択していませんか?
せめて、Weblioの検索結果をもう少し下までスクロールしてみましょう。
このセクションには、出典として「研究社 新英和中辞典」とちゃんと書かれています。そして、どんな対象についての形容なのかという語法情報が〈 〉の中に細かく補ってあります。
b〈環境など〉わびしい,もの悲しい.
c〈将来など〉暗い.
とありますから、「もの悲しい」という訳し方は、今回の文脈(今後の見通し)には適さないことが確認できます。
上の2つを見比べてみるとわかりますが、Weblioさんはトップの目につくところにまず訳語だけ並べることにしているようです。その出どころは、出典情報もあるちゃんとした辞書の内容だったりもするのですが、
必要な情報を省いて
訳語だけを並べているのでした。その目印として「主な意味」というラベルのようなものを付けているものと思われます。
ですので、同じようにWeblioを引くのでも、「主な意味」だけ見て何となく選ぶのではなく、ちょっと下まで進んで
出典の書かれた辞書
のセクションで細かい情報まで読み取るようにしましょう。
bleakの場合、『研究社 新英和中辞典』だけでなく、さらに進むとほかの辞書の内容も載っています。
ちなみに、Weblioが出典としている『研究社 新英和中辞典』は第6版です。同辞典の最新版は第7版で、LogoVista版で見ると、
となっています。「今後の見通し」について使えそうな訳語候補が増えたうえにトップに来ていますし、「もの悲しい」は消えました。
別の単語でも確認してみます。たとえば、lighten。「主な意味」は
(…を)明るくする、照らす、晴れやかにする、輝かせる、(…の)色を薄くする、(…の)影を薄くする、(…の)重量を軽くする、軽くする、緩和する、やわらげる
ですが、すぐ下にスクロールすると、やはり『研究社 新英和中辞典』の内容が出てきます。
lighten1
|他動詞|
1〈…を〉明るくする,照らす.
2〈顔を〉晴れやかにする; 〈目を〉輝かせる.
lighten2
|他動詞|
1a〈…の〉重量[荷]を軽くする.
b〈荷を〉軽くする.
2〈苦痛・税・罰などを〉緩和[軽減]する,やわらげる.
|自動詞|
1〈船などが〉軽くなる.
2〈気・心が〉楽になる.
自動詞としての「lighten」のイディオムやフレーズ
líghten up
「主な意味」だけだと、必要な情報がどれほど落ちてしまうか、一目瞭然です。最後にあるlíghten upという成句にも気づかないかもしれません。
もちろん、研究社の辞典だからといって無条件で信頼できるわけではなく、冒頭で検討した候補のひとつ「もの悲しい」が使えないとは言い切れないかもしれません。その場合には、「ものがなしい」を国語辞典でも引いてみる必要があります。
それにしても、Weblioのトップに並ぶ訳語だけ眺めて "何となく" 選んでいたのでは、国語辞典まで手を伸ばすという発想にはならないわけです。