#『校閲至極』日記、その5

いよいよ、JTF翻訳祭が明後日に迫りました。

ということであまり時間がないので、5回目ですがネタはひとつだけ。

「コロナ「差別」に言葉であらがう」(p.136~)より

同様の例に、「感染が発覚した」という表現がある。「発覚」は「隠していた悪事・陰謀などが明るみに出ること」(『大辞泉』)。近年は単に「判明した」意味で使われることも増えたが、(後略)

え。ええっ! 単に「判明した」の意味で使うの、「発覚」を? 私はまだ見たことも聞いたこともない気がするなぁ。

[名・ス自]隠していたことなどが、現れ出ること。ばれること。「不正が―する」「裏切り―」【岩国八】

岩波国語は、そりゃまあ載せないでしょうね。

[名・自サ変]隠していた悪事・陰謀などが人に知られること。
「問題[脱税]が―する」
|注意| 隠してもいない事柄(特に吉事)に使うのは誤り。「× 妊娠[婚約・誕生]が発覚」【明鏡二】
[名・自サ変]隠していた悪事・陰謀などが人に知られること。
|注意| 単に明らかになる、判明するの意では使わない。「× 妊娠[婚約・誕生]が発覚」【明鏡三】

明鏡はもちろん、「注意」欄を設けています。ただ、第二版から第三版に進むと「誤りから「~の意では使わない」に、若干トーンダウンしています。このように明鏡の二から三では、誤用の指摘が全体に穏やかになっている例が少なくありません。

『大辞林 四』『新明解国語辞典 八』『現代国語例解辞典 五』『新選国語辞典 十』『旺文社国語辞典 十一』『例解新国語辞典 十』『現代新国語辞典 六』 には、最近のこの使い方の記載はありませんでした。

(名・自サ)かくしていたことが わかること。
「悪事が―する」【三国七】
(名・自サ)〔=あばかれ、気づかれる〕
〈悪い/困った/かくしていた〉ことがしれること。
「不正が―する・問題が―する。忘れ物が―・芸能人の熱愛が―」【三国八】

『三省堂国語辞典』は第八版で今どきの用法に対応したようです。といっても、「判明する」という最近の意味をそのまま載せているわけではなく、「隠していた悪事・陰謀など」に限定しないような語釈になっています。

ただ、3つめ「忘れ物が―」という用例、これはどんな意味なんでしょうね?

学校などで、忘れ物(=悪いこと)がばれてしまったのか? だとしたら、従来の使い方の範囲です。それとも、忘れ物というのがそれほど悪いこととされない状況で、単に「忘れ物をしていることば判明した」んでしょうか。ちょっと分かりません。最近の使い方を載せるのであれば、もっとはっきりした用例がほしいところです。