前回、『意味変語彙力帳』をネタにして国語辞典を比較したら
思いのほか愉しかったので、今度は昨年出版されて話題になった『オタク用語辞典 大限界』をネタにしてみました。
リンク先の商品ページで「続きを読む」を開くと分かりますが、この本、「オタク用語」というくくりで売るにはちょっとネタが細かすぎたようです。
第1章 オタク共通用語
第2章 三次元共通用語
第3章 日本の男性アイドル界隈用語
第4章 K-POP界隈用語
第5章 2.5次元界隈用語
第6章 二次元共通用語
第7章 ゲーム共通用語
第8章 アークナイツ界隈用語
第9章 スプラトゥーン界隈用語
第10章 ファイアーエムブレム界隈用語
第11章 プロセカ界隈用語
第12章 ポケモン界隈用語
第13章 原神界隈用語
第14章 BL界隈用語
第8章以降は個別のゲームタイトルにまで入り込んでいるので、縁がない者にはまったく未知の世界です。
ということで、今回の企画では
第1章 オタク共通用語
第2章 三次元共通用語
第6章 二次元共通用語
だけを取り上げることにしました。これだけでも207項目あります。前回と同様、この207項目を複数の辞書で調べ、
Excel表にまとめました(クリックで拡大します)*1。
国語辞典のラインアップは前回から少し変えています。メインは以下の4点です。
- 三省堂『三省堂国語辞典』第八版(物書堂)
- 小学館『デジタル大辞泉』(物書堂、ジャパンナレッジ)
- 三省堂『現代新国語辞典』第七版(DONGRI)
- 三省堂『大辞林』第四版(DONGRI、物書堂)
前回はメインに入れていた『明鏡国語辞典 第三版』と『現代国語例解辞典 第五版』を使っていないのは、どちらも今回の企画には適さないからです(それでも、ごくまれに掲載がありました)。
サブが
- 三省堂『スーパー大辞林 3.0』(物書堂)
- 自由国民社『現代用語の基礎知識』(LogoVista、ジャパンナレッジ)
- その他
です。『スーパー大辞林 3.0』は、どの時点の電子データかはっきりしないのですが、『大辞林 第四版』より前から販売していた物書堂版を使っています(それ以外は、本家三省堂のサイトからも、KODのサイトからもなくなってしまいました)。『現代用語の基礎知識』は、1991年版~2017年版がLogoVistaに入っており、2021~2023年版はジャパンナレッジを使いました。
ただし、全207項目のうちには、さすがに国語辞典には載らんやろ~という項目もかなりあります。
インターネットやめろ
インターネット老人
死んだ記憶ある
ATM
お顔が天才
オタクくんさぁ!
オタクくん観てる~?
などなど、207項目のうち実に139項目はどの辞典も相手にしてません立項していません。上のExcel表抜粋で、グレーの網掛けをしてあるのが、この139項目です。また、上の一覧に「ATM」とありますが、これはいわゆる Automated Teller Machine のことではなく
推し〔⇒9ページ〕を応援するために、とにかくお金を使う人のこと。また、その行為
という意味なので、ふつうの「ATM」の意味で載っていてもカウントしていません。
残りの68項目について、各辞典/事典の立項状況は以下のとおりでした。
- 『三省堂国語辞典 第八版』…… 29個
- 『デジタル大辞泉』 …… 26個
- 『現代新国語辞典 第七版』…… 24個
- 『大辞林 第四版』 …… 26個
- 『現代用語の基礎知識』 …… 32個
- 『スーパー大辞林 3.0』 …… 9個
やはり三国が若干リードしていますが、『現代新国語辞典』も、学習用を意図しつつ、メインターゲットである若者にかなり寄っているらしいことがうかがえます。『大辞林』も、中辞典ということで検討していますが、おもしろかったのは『スーパー大辞林 3.0』との差です。
アニオタ、オタ活、ボクっこ、わろた、鬱展開
この5語は、『スーパー大辞林 3.0』に載っていたのに『大辞林 第四版』で削除されてしまいました。
『デジタル大辞泉』も、デジタル更新の強みを発揮しています。
アクスタ、良席、ぬるぬる、MAD
を確認できました。
『現代用語の基礎知識』のこの結果は、性質からいって当然といえば当然ですし、複数年度版があるというのも勝因でした。
ギャップ萌え、キュン死、限界オタク、スパダリ、同担、同担拒否、トゥンク、箱推し、リアコ、量産型、わかりみ、参戦、自担
これらは、『現代用語の基礎知識』のみが載せています。さすがといえば、さすがです。このうち、「わかりみ」などの「み」を造語成分として取り上げている国語辞典は複数あります。また、「箱推し」については、『現代新国語辞典 第七版』が「推し」の用例として採用しています。
このように、項目としては立てていないながら用例でオタク用語を追いかけている場合もわりとあって、三国は「推し」のなかで「推し事」と「推し活」を押さえており、「ガチ勢」は「がち」の項で、「リリイベ」は「リリース」の項でそれぞれカバーしていました。
サブの辞典では、『新選国語辞典 第十版』が「課金」を、『新明解国語辞典 第八版』か「草」を、『現代国語例解辞典 第五版』が「地雷」を、『明鏡国語辞典 第三版』が「オーラス」をそれぞれ載せています。「課金」の採用は分かりますが(前回の企画で詳しく書きました)、それ以外は編集方針がちょっと不思議といえば不思議です。
*1:今回も、完全版を見てみたい方はご連絡ください。