#『校閲至極』日記、その3

その3まで来ました。これで終わったら、まさに三日坊主。

「広辞苑に載った「エロい」に興奮」(p.76~)より

しかしまさか『広辞苑』で「エロい」が見出し語になるなんて! 2018年発売の第7版で初めて入ったのを発見し、年がいもなく興奮しました。

それにしても、やっぱり新聞の校閲者さんって「広辞苑に拠る」んですね~。

この言葉、ほかの辞書ではどうなっているでしょうか。手元でぱっと確認できる限りで「エロい」が立項されている国語辞典は、

  • 広辞苑七
  • 大辞林四、大辞林三
  • デジタル大辞泉
  • 明鏡三、明鏡二
  • 三国八、三国七
  • 岩国八
  • 現新国六
  • 例解新国語十

でした。これより古い版に遡るにはちょっと手間がかかるので、何かあれば、あとで加筆します。

『新明解国語辞典』が八版(2020年)になっても載せていないのはおもしろいですね。

〔形〕(「エロ」の形容詞化)好色である。官能的である。
【広辞苑七】

『校閲至極』でも指摘されていますが、あくまでも謹厳実直です。

(形)〔エロ、エロチックの形容詞化〕
性的な欲望・感情を刺激する。いやらしい。 「―・い話をする」
【大辞林 四】
〔エロ(エロチック)の形容詞化〕
(形)俗に、性的にいやらしい。「―・い話をする」→シモい
【大辞林 三】

第三版(2006年)ですでに立項されていて、第四版(2019年)で少し語釈が変わっています。第三版の参考情報として載っている「シモい」! いや、こっちはほとんど聞いたことありません!

[形]《「エロ」の形容詞化》好色なさま。また、性的魅力があるさま。【デジタル大辞泉】

用例はありません。「デジタル大辞泉」は版/バージョンの表記が不明確なのですが、こちらは現時点で物書堂版(2019年)とジャパンナレッジ版で確認できる内容です。

[形]〔俗〕性的な欲望を起こさせるさま。「エロい話」
◇「エロ」を形容詞化した語。【明鏡三】
 〘形〙〔俗〕みだらでいやらしい。 「―話」
◇「エロ」を形容詞化した語。【明鏡二】

明鏡も、第二版(2010年)から第三版(2020年)で語釈が変わっていて、「性的な欲望」云々が増えているところは大辞林と似ています。

(形)〔「エロ」を形容詞化した語〕
〔俗〕①いやらしい。「―話」
②性的魅力がある。「エロくて かっこいい」【三国八】

三国の第八版(2021年)は語釈を①と②に分けています。第七版(2013年)でも同じ。

〘形〙好色である。また、性的魅力がある。「―話」▽「エロ」から。【岩国八】

同じ岩波書店でも、広辞苑よりだいぶ日常的です。第七版(2011年)にはなく、第八版(2019年)で採用されました。

〈形〉性的な興奮をかきたてる様子だ「―水着」
【三省堂現代新国語辞典 六】

こ、これは、用例に注目でしょう! 現新国といえば、想定対象読者は中学生・高校生です。「エロい話」より「エロい水着」のほうが用例として適切ということなのでしょうか! というか、中高生対象の国語辞典でこの単語が載っているのは、確認できる限りこれだけです。言葉の現実を隠さず見せる、という編集方針なのでしょう。刊行は2019年です。

ちなみに、現新国は新しい七版が出ているのですが、まだ手に入っていません(2023/10/18発売)。手に入り次第、こちらも補完します。

 

ところで、私が最近強く推している『三省堂 例解新国語辞典 第十版』(2021年)には、「エロい」は載っていません。これも、現新国と同じく中高生が対象なのですが、どちらかというと中学生寄りだからかもしれません。が、代わりに「エロ」にこんな記述がありました。

〈名・形動〉「エロティシズム」の日本での省略語。|例| エロ本。
|表現| もとの「エロティシズム」よりも下品な内容を表すので、「エログロナンセンス」などと言われる。

この「表現」セクションにある赤字の説明、すばらしいと思いませんか。これに類する記述は、ほかのどの辞典にもありません。こういうところが、この辞書のうれしいところなのです。

そういえば、用例の「エロ本」で思い出しました。元アリスの谷村新司さんが亡くなりましたが、さっそく過去の「ビニ本5000冊」の話が浮上してました。エロ本、ビニ本のことは、昔オールナイトニッポンでもよく話題になっていた記憶があります(しょうもない話ですいません m(__)m)。

 

閑話休題。

辞典で、前後にどんな言葉が並んでいるか眺めるのも楽しいものです。「エロい」の前後は、物書堂版で見てみると、こうなっています。

「エロイカ」は固有名詞なので、大辞林とか大辞泉のような中辞典でないと載っていません。

おもしろいのは大辞泉。「エロイカ」に続いて、なんと「エロイカより愛をこめて」が載っています。もちろん、あの漫画のことです。ただし、これは『大辞泉』本体に載っているわけではなく、この手の大衆文化項目まで広く載せている『大辞泉プラス』の項目です。ジャパンナレッジだと『大辞泉』と『大辞泉プラス』は別コンテンツとして扱われているのですが、物書堂ではこのように同じ画面に出典情報付きで表示されます。

大辞泉でもうひとつおもしろいのは、類語情報です。物書堂版なら、語釈のすぐあとに続いて表示されます。ジャパンナレッジだと右カラムの下に出ます。

淫ら・みだりがわしい・卑猥(ひわい)・淫猥(いんわい)・猥褻(わいせつ)・いやらしい・淫靡(いんび)・淫乱・いかがわしい・エロチック・エッチ・官能的・肉感的・扇情的・性的・あだっぽい・色気・なまめかしい・色っぽい・あだ・色香・艶(つや)っぽい・あでやか・濃艶・妖艶・あで姿・セクシー・チャーミング・コケットリー・コケティッシュ・エロ・セクシュアル・不身持ち・不品行・ふしだら・不行状・不行跡・淫蕩・好き者(しゃ)・好き者(もの)・色好み・色情狂・色気違い・自堕落・好色・多淫・放蕩・遊蕩・邪淫・荒淫・姦淫(かんいん)・淫奔(いんぽん)・漁色・酒色・すけこまし・ジゴロ・尻軽・きわどい・淫婦・女たらし・女狂い

なんかもう、お腹いっぱいって感じになりますねw