# OEDに最近追加された日本語 - 今回はトンカツ推し

Oxford English Dictionary(OED)のニュースレターによると、この3月には1,000以上の新語が追加されたとのことです。

Update - March 2024

また、そのうち日本語から追加された単語については別途の記事があります。

Words from the land of the rising sun: new Japanese borrowings in the OED
(会員でなくても読めるはずです)

追加されたのは23語で、この記事の内容については後述します。

OEDのオンライン版については以前から絶賛していて、

baldhatter.txt-nifty.com

旧ブログのこの記事で紹介したときからはインターフェースが変わったものの、洗練されたデザインと機能の充実度は変わっていません。

それ以上にすばらしいと思うのは、やはりオンラインになってからの情報更新の早さです。そういえば、NHKのドラマ版『舟を編む』でも、先日3月24日の回に「これからはもうオンラインの時代でしょ」みたいなことを堤真一が言ったばかりでした。

OEDの次の書籍版、つまり第3版がはたして発行されるのかどうかは分かりませんが、少なくともオンラインでこれだけのコンテンツを作って運用し、それをしっかりマネタイズしている(£110/年)わけですから、今の時代の辞書ビジネスとしては、

ある種の理想形

だろうと思います。新語は毎年3月、6月、9月の3回追加されています。

ひるがえって本邦の国語辞典を見ると、完全デジタル化を宣言し、オンライン版で更新を続けているのが『デジタル大辞泉』です。いろいろと制約のあるなかで頑張ってはいると思いますし(更新は年の2回)、複数のサイトで無料公開している心意気はありがたいのですが、本家サイトを運営していない点は惜しまれます。

また、国内の英語辞典サイトとしては「研究社オンライン・ディクショナリー(KOD)」が代表で、こちらでも「EV」というラベルを付けた新語、新語が追加されていますが、いかんせん、ペースが遅すぎます。

OEDの運営元はOxford University Pressですから、日本でいうと東大出版会に当たるのでしょうか(組織の規模とか実状などはまるで知らずに書いてます)。日国のデータを持っている小学館と東大出版会が協力して、OUPと同じような予算と人材をつぎ込み、辞書事業に当たるということはできないものか、と考えてしまいます。

さて、話は戻って、3月にOEDに追加された日本語。以下の23語だそうです。

donburi, n.
hibachi, n.
isekai, n.
kagome, n.
karaage, n.
katsu, n.
katsu curry, n. 
kintsugi, n. 
kirigami, n. 
mangaka, n. 
okonomiyaki, n. 
omotenashi, n. 
onigiri, n. 
santoku, n. 
shibori, n. 
takoyaki, n. 
tokusatsu, n. 
tonkatsu, n. 
tonkatsu sauce, n. 
tonkotsu, n./1 
tonkotsu, n./2 
washi tape, n. 
yakiniku, n. 

まず目立つのは、食べ物の多さです。日本食の海外進出を考えると、ある意味当然なのかもしれません。donburi、karaage、katsu、katsu curry、okonomiyaki、onigiri、takoyaki、tonkatsu、tonkatsu sauce、tonkotsu /2、yakiniku の計11語と半数近くです。なかでも、カツ、カツカレー、トンカツ、トンカツカレーと、トンカツ関連は顕著。用例報告した人のなかに、

よほどのトンカツ好きがいた

に違いありません。なお、食べ物として入った「とんこつ」は tonkotsu 2 のほうです。

In Japanese cookery: pork bone; a dish made with pork bone, spec. a savoury broth typically served with ramen noodles. Frequently as a modifier, esp. in tonkotsu ramen.

「トンコツ」くらいなじんでいる単語を英語でmodifierとか説明されると、妙におかしい。初出用例は1977年とされていますが、これはもっとさかのぼれそうな気がします。

で、問題は tonkotsu /1 のほう。

A Japanese box or pouch typically used to store tobacco, made of wood or other material, carved or otherwise decorated, and fastened with strings that can be attached to the belt of a kimono. Now more usually as an ornament or collector's item. Cf. inro n., netsuke n., ojime n.

え、え? タバコ入れ?「とんこつ」がタバコ入れ?

こちらは、ジャパンナレッジで日国を引いてようやく解決しました。

(1)木製のタバコ入れ。《とんこつ》佐賀県887長崎県北松浦郡899鹿児島県肝属郡(牛の角でも作る)970《とんこ》熊本県八代郡921葦北郡934

九州の方言だそうです。普通の国語辞典にはまったく載ってません。なんで、こんなの採用したんでしょうね……*1

さて、食べ物だけでなく、kagome、kintsugi、kirigami、shibori、washi tapeと、工芸関連の語彙が4つ入っているのも注目ですが、個人的に注目したいのは、やはり

isekai, n.
mangaka, n. 
tokusatsu, n. 

この3語です。isekai については、こういう語釈が付いていて、

A Japanese genre of science or fantasy fiction featuring a protagonist who is transported to or reincarnated in a different, strange, or unfamiliar world. Also: an anime, manga, video game, etc., in this genre. Frequently as a modifier.

初出の用例は2018年とされています。tokusatsu は、初出用例が愉しいので、紹介しておきます。

2004 Hakaida, the cool bad guy, reigns as one of the favorite of all Toei's tokusatsu (special effects genre) heroes.
Honolulu Star-Bull. 1 July (Night Final edition) (Today section) d3/3

Hakaida って、何だか分かりますか? ヒントは出典です。ハワイでは、ある1970年代に作られたある特撮作品がえらく人気だったそうです。

 

 

*1:引用はしませんが、初出用例の出典として挙げられているのが、Catalogue Valuable Chinese & Japanese Antiq という本らしく、やや地方色の強い特殊な言葉が特定の本で紹介されていたのかもしれません。そういうマニアックなところまで用例採取のネタになっているところは恐るべしです。