ふとしたきっかけで旧ブログと新ブログを改めて検索してみたのですが、なんと、Wiktionary についてちゃんとした記事がなかったことに、今さらながら気づきました。
EPWINGデータなどを紹介するとき、何度か言及はしていたのですが……。ということで、気を取り直して Wiktionary について書いておきます。
その前に、ひとつだけ。今日のテーマは
Wiktionary
であって、
Wikitionary
ではありません。Wiki ベースだから「Wikitionary」だろうと、何年か前まで思い込んでいたのは私です。Wiki ベースだけど、Dictionary の音にかけてるんですね。カタカナで書くなら、「ウィクショナリー」であって「ウィキショナリー」ではない。
Wiktionary とは
Wiktionaryとは、Wikipedia と同じ Wiki のシステム、つまり誰でもWeb上で自由に編集できるシステムを使って作られている辞書です。運営母体はウィキメディア財団。
つまり、Wikipedia と同じく読者編集によって作られているコンテンツなのですが、だからといって、Urban Dictionary で最近よく見かけるようないい加減な内容が載っているわけではなく、かなりしっかり吟味・精選された語義と用例が載っています。
ここで私が「かなりしっかり吟味・精選された語義と用例」と言っているのは、けっして感覚的なことではありません。Wiktionary で見つけた新語や新語義を他の辞書でも確認した結果、信頼できると、少なくとも私は判断しているということです。
ふつうの単語も拾えますが、威力を発揮するのは当然、新語や新語義が見つかるときです。つい先ほども、こんな単語が載っていました。
hold のタイポではありません。「暗号通貨、特にBitcoinを"ためこむ"こと」といった意味合いの新語、というか業界俗語です。
異表記(Alternative forms)や語源、発音、品詞ラベル、語義、用例、派生語、関連情報などがそろっている、つまり
辞書としての体裁をちゃんと整えている
ところも重要です。その点で、英辞郎とも一線を画しているサイトといえます。
もちろん、ここから始まって、いくつかのサイトで裏をとるわけですが、ひとまずこういう足がかりになる記述が見つかる、というのは、本当にありがたい。
Wiktionary のEPWINGデータ
ということで、本家サイトをブックマークして使ってもいいのですが、なんと、ありがたいことに、Wiktionary 全データがEPWING化されています。
2014年6月から始まって、だいたい1年に2回くらいのペースで更新され続けています。
これを作ってくださっているのは、私があちこちで紹介している大久保克彦さんです。Wiktionary や Wordnet などの辞書のほか、聖書やシェイクスピアのテキストなど、私たち翻訳者にとってなくてはならないデータを次々とEPWING化してくださっている、神様のような方。私は、敬意と感謝の念を込めて
ジェダイ大久保さん
と呼んでいます。大久保さんのことは、JTFジャーナルのバックナンバー、2015年11月号にも載っています。
※サイト上のインターフェースはクソ使いにくいので、ダウンロードしてPDFリーダーでお読みください。
Wiktionary データをずらっと
私は、この Wiktionary EPWINGデータを、辞書ブラウザEBWin4に登録して使っています。常用セットには最新バージョンだけ登録し、それとは別に過去のWiktionaryデータすべてを、Wiktionaryグループとして別に登録しています(EBWin4では、いくつでも辞書グループを作成して使い分けられる)。
たとえば、これは dumbphone という単語を引いたところ。「Wik」というボタンが16個ずらっと並んでいて、これが大久保さんの作成してくださったWiktionary全EPWING版。いちばん右が最も古く2014/06/08のデータです。
Wiktionaryには、少なくともこの時点でもう dumbphone が載っていたことがわかります。
なんでこの単語を選んだかというと、たまたまさっき、Merriam-Webster にこの単語が収録されたというツイートを見かけたからです。なるほど、無料版にも有料版にも載っています。
(https://www.merriam-webster.com/dictionary/dumbphoneより)
辞書の履歴をたどれるということ
ところで、Wiktionary は編集履歴をたどっていくと、初掲載の日時や、その後の編集履歴をたどることができます。そういう観点でMerriam-Websterのサイトを見てみると、残念ながら、最新更新日時はわかるのですが、初出日時はわかりません。そこがちょっと残念(私が見落としているのかもしれませんが)。
その点でも、有料のOxford English Dictionary(OED)は一枚上手です。Entry history および Entry profile というセクションがどの単語にも付いていて、細かく過去の履歴がわかります。