#『校閲至極』日記、その6

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ということで、『校閲至極』日記その6です。

「ろくろを「ひく」挿絵を見て納得」(p.152~)より

現代の私たちが知っている「ろくろ(轆轤)」はたいてい陶芸用で、「回す」ものだと思っていますが、実は木工用の「ろくろ」もあって、昔はそれを人間が「引い」て回していました。そういう説明に続いて、こう書かれています。

『広辞苑』の挿絵を見てみてほしい。傍らで遊ぶ幼児をあやしながら、職人さんが懸命にろくろを引っ張っている。

国語辞典の挿絵の話です。これはおもしろいネタになるに決まっています。だいぶ前の「国語辞典ナイト」でも、国語辞典の挿絵を楽しむという西村まさゆきさんの話がありました。

『校閲至極』で取り上げられている『広辞苑』の挿絵はこれです(六版、七版でたぶん同じ絵)。

――『広辞苑 第七版』LogoVista版より

もともとの出典が何なのか分かりませんが、味があります(印刷物に適するように線は加工してあると思います)。

さて、これと同じ「ろくろ」について、他の国語辞典はどんな挿絵を当てているでしょうか。

挿絵ということなら、学習国語辞典のほうがよさそうです。しかも、ちょっと古いのを開いてみました。

――『小学館 学習国語新辞典 常用新版』より

これは明らかに陶芸用ですね。ただ、語釈を見ると陶芸用と木工用とが区別されていません。小学生向けだからしかたない? そして、細部は少しずつ違いますが、

『旺文社 標準 国語辞典 第八版』
『集英社 国語辞典 第3版』
『三省堂国語辞典 第八版』

なども、おおむねこれと同じ絵でした。いずれも、ろくろ自体だけを描いた絵です。

バリエーションとして、使っている人まで絵に入っているものもあります。

――『ベネッセ 新修国語辞典 第二版』より

絵がだいぶ今どきっぽくなっている……というには、どこか懐かしくも古くさい絵です。国語の教科書の挿絵っぽくもあり、やはり国語辞典の挿絵の典型という感じ。

次は、最近の私の「推し辞書」からです。

――『三省堂 例解新国語辞典 第十版』より

三省堂の『例解新国語辞典』は、語釈や補足などでもたびたび、ほかにはない独自の工夫があって、熱烈におすすめなのですが、挿絵もひと味違っていました。ちなみに、語釈はこうです。

①井戸などについている滑車。つるべを上下させるのに使う。②回転する軸に刃物をつけて、まるくえぐる道具。ろくろがんな。|絵| ③陶器をつくるために回転させて使う木製の台。ろくろ台。|絵| ④かさをひろげたりとじたりするときに使う、小さな器具。|絵|

滑車、木工用、陶芸用、かさの部品と4つに分けて説明してあり、その4つのうち3つまで別々に挿絵を付けています。すばらしいと思いませんか? 書籍の国語辞典をひとつだけ買うならこれ、ほんとおすすめです。

国語辞典として紹介するなら、だいたいここまででいいのですが、もう少し引いてみると、挿絵の世界がさらに楽しくなっていきます。まずはこれ。金園社の『六万語 国語辞典』(1963年初版)です。

――金園社『六万語国語辞典』より

この挿絵は、

(三)丸い挽物(ひきもの)を造る工具

という語義に対する絵で、つまりは木工用の道具のはずなんですが、味がありすぎて、ちょっとよく分かりませんw

もうひとつ、『角川 国語辞典』の挿絵も味があることで知られています。

――『角川 国語辞典 新版』より

こちらは④ 「ろくろ台」の絵なので、陶芸用の道具ですが、使っている人も描かれているうえに、側面断面図になっています。仕組みはよく分かんないですけど^^;

ちなみに、この『角川 国語辞典 新版』は、「新版」となっているわりに、1969年刊行で、その後も改版されずに今も売っています。ここに描かれている人の顔にも、なかなかの昭和テイストが漂っていて、良い感じですよね。

国語辞典のネタはここまでなのですが、最後に

東京堂出版『日本職人辞典』(1985年)

という変わり種も引いてみました。

――『東京堂出版 日本職人辞典』より

オリジナルをそのまま再録しているせいか線もかすれていますが、どうやら『広辞苑』の挿絵と同じ絵のようです。「轆轤師」という項目に載っています。

轆轤を使って椀・盆など、刳物(くりもの)を作る職人。轆轤挽・挽物師ともいい、また漆器の生地を作るので木地挽・木地屋ともいう(轆轤とは本来回転運動をする機械の総称で、陶器や金属などの細工をする道具のみならず井戸の滑車などもいうが、轆轤師は木地挽に限った名称である)。轆轤の歴史は古い(中略)轆轤は絵と同様の二人引轆轤と推定されている。

この後にも、2ページ以上にわたってかなり詳しい記述があって、どうでもいい好奇心を満たすのにはなかなかいい本。