#『校閲至極』日記、その1

毎日新聞出版から8月に出たこの本。

構えて読むような内容ではなく、食事するときとか仕事の休憩時間とかに読むのにちょうどいい。これを、いつものように付箋付けながら読んでいるわけですが、ときどき疑問点などもあって(私の読書術で、オレンジ色の付箋が付くレベル)、それを書きとめてみることにしました。『校閲至極』を校閲しよう……というほど僭越なものではなく、単に気になったところメモです。

「その1」と書きましたが、「その2」以降があるかどうかは分かりません^^;

「守備範囲は無限、多様な面で苦闘」(p.18~)より

作業が集中して大変そうなところを見計らっては、当日物以外のさまざまな紙面の校閲を黙々とこなす「名脇役のような」~

この引用に出てくる、「当日物」とは何でしょうか?

日国も含め、ジャパンナレッジで全文検索してみましたが何もヒットしません。それ以外の国語辞典でも、主見出しとしてはもちろん、「当日」の追い込み項目としても立項されていませんでした。

漢字の造語力を考えれば、想像はつきます。おそらく、「とうじつぶつ」ではなく「とうじつもの」と読むんでしょう。意味するところは、たぶん「当日の記事」「当日限りのコンテンツ」あたりなんだと推察されます。

そういう造語に使う「もの【物】」ならどの国語辞典にもあって、

  • 「夏―」 「西陣―」 「三年―のワイン」 「現代―」【大辞林 四】
  • 「春物の服」「縁起物・時代物」「冷や汗物・表彰物・眉唾物」【明鏡三】

といった用例が見つかります。が、どの用例も世間で一般的に通用している言葉です。あまり使用例がない「当日物」のような言葉――もしかしたら、社内で通用している用語なのでしょう――を一般向けの文章に使うのは、ちょっと疑問でした。

「美しい言葉見て 自然に声が出る」(p.21~)より

読み手は読み上げた字が聞き手に正確に伝わるよう説明を加える。(中略)「智子」なら「知子」と分けて「いわく(曰)の『ち』に、子どもの子」。

ん? 「智」の字の下半分は

(いわく)なの?

(ひ、にち)じゃなく?

これ、調べはじめたんですが、どうも辞書によって扱いが違うみたいですね。時間がかかりそうなので、宿題とします。

いずれにしても、音声で漢字を説明する場面で、「いわく」という説明ってどのくらい通用するんだろ? と、ちょっと疑問でした。

「汚れはスッキリ 追及にどっきり」(p.47~)より

ここで「追及」か。『国語大辞典』での「ついきゅう」の使い分けを見よう。

はて、この『国語大辞典』とはいったい、どの辞典のことでしょう?

もちろん、答えの予想はつきました。校閲者さんが二重カギカッコを付けて書名として示しているのですから、いい加減な書名のはずはありません。結論からいうと、これは小学館『日本国語大辞典』いわゆる日国の "一冊簡約版" である

『国語大辞典』(1981年)

のことです。1988年には新装版が出て、その電子版がかつてのMicrosoft Bookshelf 2.0に収録されていました。Microsoft Bookshelf については、私の旧ブログに記事があります。

baldhatter.txt-nifty.com

こちらの記事を見ると、商品画像に『国語大辞典 新装版』も載っています。それから、この『国語大辞典』については、

この本の60ページにも詳しい説明があります。さすが!

というわけで、国語辞典に少し詳しければ、上に引用した「国語大辞典」の正体は分かるのですが、一般的にいったら、これってやはり紛らわしいのではないでしょうか。日国のことだと思う人もいるかもしれませんし、「国語大辞典」という名が付いているということなら、かつて学研からも『国語大辞典』が出ていました。

もっとも、正式には『学研国語大辞典』なので、本当は違うんですけど。

それから、1986年に小学館から出た『言泉』も、副題ながら「国語大辞典」という名前を冠しています。

以上を考えると、一般読者向けの辞典名の示し方として、ちょっと疑問でした。