書籍とかゲームとかCD/DVDについて、その "題名" の意味ではなく、商品というか "モノ" を指す意味で「タイトル」って言うことありますよね?
今月発売の注目タイトル!
PlayStation 4のゲームタイトル一覧
2018年6月末時点で50タイトルを突破
みたいな使い方です。
これって、いつ頃から使われるようになって、今の日本語ではどのくらいの通用度があるのかな、とふと思ったので調べてみました。
結論から言うと、
・英語ではわりと古くからある使い方。ただし語義は広がっている
・この意味を載せている国語辞典は多くない
ということが分かってきました。
まず、英語辞典から。オンライン版を中心にまとめてみましたが、基本的にどれにも載っています。主なものだけ引いてみます。
●Cambridge BUSINESS
a book with a particular title that is produced by a publisher:
[count] : a published book
〈The company published 25 new titles last year.〉
●Oxford Lexico
A book, magazine, or newspaper considered as a publication.
●Macmillan ONLINE
a book or digital product that is produced by a publisher
It’s a small company that publishes about 20 titles a year.
●Merriam-Webster
a usually published work as distinguished from a particular copy//published 25 new titles
●OED Online
A book, magazine, or newspaper considered as a publication. Also in extended use with reference to musical recordings, and later also video recordings, computer games, etc., considered as commercial products. Originally in the language of publishers and booksellers.
1845 H. S. Thirlway Jrnl. 5 Nov. (1996) ii. 18 Today we received..the paper for the titles which we commence printing.
2018 Electronics for You (Nexis) 1 May There is word in the air that PS5 may extend support for some PS4 titles, but only the digitally downloaded ones.
最後にあげたOxford English Dictionaryの初出例(1845年)でも分かるとおり、英語では特に新しい用法ではないようです。ただし、よく見ると、指す対象はけっこう違います。
CambridgeやMerriam-Webster Learner's は「本」だけ。
Oxford Lexico(無料で引けるOxfordの一般英英)だと「雑誌・新聞」などまで広がりますが、あくまでも印刷媒体。
Macmillanになると、デジタル商品が入ってきます。
Merriam-Websterの一般英英になると、work というかなり広義な語を使っているほか、"as distinguished from a particular copy"という記述が独特です。
そして、OEDはさすがです。もともとは「本・雑誌・新聞」などの印刷媒体のこと、その後 "musical recordings" にまで概念が広がり、さらに最近は "video recordings, computer games, etc." まで含むようになったという変化も含めて詳しく書いてくれています。初出が1845年、最新用例になると、なんと、PS5 などというホットなキーワードの用例が採取されています。
年間サブスクリプションはけっして安くありませんが、こういう情報を拾えるのですから、やはりありがたい存在です。
一方、国語辞典はというと、あくまでも私の手元にある範囲ですが、以下の5点だけでした。カタカナの「タイトル」がいつ頃から使われるようになったのか?という疑問がそもそもの出発点だったので、それぞれの辞書の発行年も書いておきます。
■三省堂国語辞典 第七版(2013年)
本・ソフトウェアなど、題のついた商品。「人気――」
■デジタル大辞泉
本や映画・レコードなど、表題のある作品。
■例解新国語辞典 第十版(2021年)
ある題名の、本やCD・DVDなど 例:人気タイトル
■日本語新辞典(2005年)
本・映画・音楽ディスクなど、題名をもつ作品。例:月三タイトルずつ刊行する。
■新選国語辞典 第九版(2011年)
本・CD・DVDなど、題名のある商品。「一度に五――を発売する」
これ以外の国語辞典は、どれも
① 書名、題名、表題 ②字幕 ③肩書き ④選手権
という4種類の項目しか載せていません。
英語の辞典では、対象が印刷物かそれより広いかで語義が分かれていましたが、国語辞典で印刷物に限定しているものはありません。ということは、印刷物に限られていた時代に、「タイトル」でモノを指す使い方は日本語に入ってこなかったのかもしれないと推測できそうです。
「作品」という語釈と「商品」という語釈があるのは英語(productとwork)と同じですね。
『三省堂国語辞典』は、実は第六版(2008年)から載せています*1。【5/5追記】 第五版が届いたので確認しました。第五版(2001年)には載っていませんでした。
さすが、今の言葉の採取をモットーとする辞書だけあります。
『デジタル大辞泉』は、もう「版」という概念がなくなってしまったので、いつ頃から載せているのかは分かりません。そういえば、物書堂のアプリも出ましたね。
『例解新国語辞典』は、中高生がメインターゲットの辞書ですが、「CD・DVD」まで入ってるのも、その特性からでしょうか。
今年に入って第十版が出たばかりです。ひとつ前の第九版(2016年)に、この語義は載っていません。
ちなみに、これが中高生向けでありながら侮れない辞書であることは、この本でも紹介されています。
あ、この本の紹介、まだ記事にしてなかった!
『日本語新辞典』 は、私が最高と思っている国語辞典ですが、残念ながら絶版です。2005年刊なので、今回調べたなかでは最も古い採用ということになります。
『新選国語辞典』は第九版しか持っていないので、2011年より前から載せていたのかどうかは不明です。
『岩波国語辞典』や『新明解国語辞典』が載せていないのは分かりますが、新語の収録に積極的な『大辞林』でも載せていないのは意外です。
なお、国語辞典ではありませんが、国語辞典的に使える『研究社和英大辞典 第5版』には、
3 〔出版物〕 a title.
がありました。
時代ごとの「カタカナ語辞典」が手元にあればいいのですが、そこまでは揃っていないので、機会があれば入手してもう少し追究してみたいテーマです。
【以下、5/5追記】
Facebookで、過去の用例を調べてくださった方がいらっしゃいました。
たしかに、IT周辺が使い始めたのはかなり早かったと記憶しています。そのほか、1996年の使用例もあるそうです。m(__)m
*1:というか、第六版と第七版しか持っていないので、それより古い版には遡れていません。あわてて注文しました。判明したら追記します