# セイコーインスツル、サービス完全終了

セイコーインスツル(SII)さんのサイトで告知が出たようなので(関山先生の投稿で知りました)、こちらでも紹介しておきます。

電子辞書修理および部品販売(充電池など)終了のお知らせ
電子辞書製品の修理は一部機種のみ継続をしておりましたが修理部材の関係により22年10月14日を持ちまして修理及び部品の販売を終了させていただく予定です。長い間SII電子辞書をご愛顧いただきまして心より感謝申し上げます。

(太字は引用者)

2015年3月末にSIIが電子辞書事業から撤退したあとも、ファームウェアのアップデートや、電池交換・修理などのサービスは細々と続いていたわけですが、上の日付からはいよいよ、それも受けられなくなるという告知です。

翻訳者の希望の星だったPASORAMAも、いよいよ終焉のときが近づいているのかもしれません。

「まだだ!まだ終わらんよ!」

という声も聞こえてきそうですが、備えはしておきたいところです。以下の記事などが参考になるかもしれません。

baldhatter.hatenablog.com

ついでに、いい機会なのでPASORAMA登場あたりからの経緯を簡単に振り返ってみました。随所で、過去記事も紹介しています(こうしてみると、長く続けているブログって、我ながら貴重な記録になっているものです)。

翻訳者ご用達の電子辞書が登場

翻訳業界でPASORAMA搭載機種が話題になり始めたのは、2010年を過ぎたころからでしょうか(PASORAMA搭載端末そのものはその数年前に登場)。もともとPC上の辞書がメインだった私が、それでも気になって購入したのは2011年の秋でした。

baldhatter.txt-nifty.com

PASORAMAを使ってみたかったのと、コンテンツとして『Concise Oxford Dictionary 11th』や『岩波理化学辞典』、前年の2010年に出たばかりの「うんのさん(V5)」が載っていたのが決め手になりました(もちろん、うんのさんはEPWING版を使っていましたが、電子辞書に載ったのはこれが初めてでした)。

この機種、SR-G9003は人気も高く、搭載コンテンツによってSR-G9003NH3などのバリエーションモデルもありました。また、この頃のフラッグシップモデルはSR-G10001で、こちらのユーザーも多かった(多い)はずです。

永遠の名機DF-X10001登場

その2年後、2013年の10月に買ったのが、その後も翻訳者の間で不動の人気を誇ることになるフラッグシップモデル、DF-X10001です。最大の理由は、何といってもまだ書籍版しかなかった『リーダーズ 第3版』(R3)が初めて収録されたこと。同じ理由でこの機種を買った同業者は多かったと記憶しています。また、PASORAMAのインターフェースもアップデートされてだいぶ使いやすくなりました。

ただし、私が購入したのは実際には旧モデルのDF-X10000です。

DF-X10001の発売が決まったとき、SIIがこんなキャンペーンを実施しました。

【DF-X10001発売記念】
「DF-X10000有償ソフトウエア書き換えサービス」が期間限定で行われます。本体をメーカーに送付すると、約1週間後に「リーダーズ第2版」が「第3版」に置換され、追加機能も搭載されます。1台5,000円(税込・代引)。

つまり、型落ちモデルのDF-X10000に、5,000円払えばR3が載るというわけで、今にして思えばユーザーの心をよく分かっていたサービスでした。当時の実売価格では、DF-X10000を買って5,000円払うほうが安かったので、私は迷わずそちらを選択。このときのブログ記事もあります。

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導入の段階から、

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ファーストインプレッションまで。この頃は、親しみを込めて「DF-X10000改」と読んでいました。「百式改」みたいなもんです。

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ただし、PASORAMA上でバージョン情報を見ると、しっかり
「DF-X10001」
に変わっています。

翻訳フォーラムのイベント

こんな感じで、同業者の間でPASORAMA搭載機種が話題になっていたこともあって、翻訳フォーラムが2014年3月に開催したシンポジウムでは、SII の中の人を呼んで、「実機にも触れる説明会」も開催しました。このときのこと、私はブログ記事にしてなかったみたいですが(すいません……)、ご参加くださった方も多いと思います。今に至るまで、PASORAMA愛好者が多いのは、このイベントもひと役買ったのかもしれません。

そして、撤退

ところが、それからわずか半年ちょいたった同年10月には、なんとSIIが電子辞書事業から徹底すると発表されます。翻訳業界に大きな衝撃が走ったことはいうまでもありませんが、当時私が調べたデータによると、撤退はあまりにも当然という状況でした。

禿頭帽子屋の独語妄言 side A: # SIIの電子辞書ビジネスからの撤退に思う、その1

禿頭帽子屋の独語妄言 side A: # SIIの電子辞書ビジネスからの撤退に思う、その2

禿頭帽子屋の独語妄言 side A: # SIIの電子辞書ビジネスからの撤退に思う、その3

3回にわたって記事を書いています。ここにもあるように、当時のSIIのシェアは、王者カシオ(約51%)は言うまでもなく、シャープ(約30%)、キヤノン(約10%)にすら及ばない、せいぜい5~6%だったのです。

PASORAMA機能で喜んでいたのはおそらく翻訳者ばかりで、その需要など世間一般からすれば微々たるものだった――ということを改めて実感しました。

Windows 10、11でも動きつづけている模様

撤退後も、SII は電池交換や修理といったアフターサービスに丁寧に対応してきたようです。それが、冒頭の発表のように、この秋で完全に終了するということになります。

そして、Windows 10以降は公式にサポートされていないにもかかわらず、インストールして無事に動いているという報告がときどきあがってきます。

こちらの方が、ブログでどちらもレポートなさっています。

pipio.yokohama

pipio.yokohama

アプリに移ったものの……

ここからは、ちょっと残念な経緯です。

baldhatter.txt-nifty.com

撤退から1年半後くらいに、かつてのPASORAMA対応コンテンツはいったん、iOSアプリとして復活します。以前どおりのコンテンツとはいきませんが、ランダムハウスや研究社新英和/新和英、うんのさんV5、岩波理化学辞典、180万語辞書などはそろっていたので、ちょっとだけ盛り上がるかな……と思ったのですが、教育市場がメインターゲットだったせいもあり、どちらかというと不発に終わりました。

私のiPadではまだ動いていますが、今回の完全終了を考えると、そのうちiOSのアップデートに対応せず、使えなくなるかもしれません。

 

またひとつの歴史が終わったな、というところですね。