#『研究社新和英大辞典 第5版』、収録データの謎

昨年の12/18に書いたように、baldhatter.hatenablog.com

昨年末には物書堂アプリの新タイトルが相次いで発売されました。そのうちの目玉のひとつが、今回のタイトルにもある『研究社新和英大辞典 第5版』です。www.monokakido.jp

私も先ほどダウンロードし、「見出し」と「用例」の2種類の検索モードがあることを確認しました。見え方は異なりますが、これまでEPWING版/LogoVista版でできた

  • 和英大辞典を逆引きして英和辞典のように使う
  • 和英大辞典を国語辞典として使う

などのやや変則的な引き方も可能です。

さて、それはいいのですが、この辞書の収録データのことが、改めて気になりました。以下にちょっとまとめてみます。

 

1. 底本-書籍版『研究社新和英大 第5版』(2003年)

言うまでもありませんが、私たちがいま使っている電子媒体も、すべては書籍版から始まっています。まえがきの日付は2003年4月。収録データについては、こう書かれています。

総収録項目数は約 48 万(見出し語 13 万+複合語 10 万+用例 25 万). 旧版の 29 万(見出し語約 8 万+合成語・句 16 万+文例 5 万)に比べ約 65% 増となりました.

この「まえがき」はEPWING版/LogoVista版、今回の物書堂アプリのいずれでも読むことができます。見出し語+複合語=23万語、用例25万、これがベースラインですね。

 

2. EPWING版/LogoVista版『研究社新和英大 第5版』(2004、2005年)

ここからは、私の手元にある製品によるデータです。だいたいこれと同じだと思うのですが、皆さんのお手元にあるEPWING版/LogoVista版に相違がある場合は、コメント欄で教えていただければ幸いです。

このディスクに収録されている内容は, 『新和英大辞典』第 5 版(見出し語・複合語約 23 万, 用例約 25 万)に見出し語・複合語約 2000 を追加したのをはじめとする若干の改訂を行なったものになっています.

EPWING版「このディスクについて」等からの引用です。著作権表記が、EPWING版は2004年、LogoVista版が2005年となっています。書籍版の発行からあまり間がなく、それほど大きい増補という感じではなかったようです。

 

3. 物書堂アプリ製品紹介ページ(2021年)

上に載せたリンク先にある文面です。

本コンテンツに収録されている内容は、「新和英大辞典 第5版(見出し語・複合語約23万、用例約25万)」に、研究社オンラインディクショナリー(KOD)の和英項目として執筆された、見出し語・複合語約87,000、用例約7000を追加したほか、第5版の記述本体に対しても加筆・修正を行なった電子増補版です。
※ 電子増補版の追加語彙の項目数は、第5版との重複分を含みます
電子増補版の最終更新日は2021年5月のものとなります。

この文面を見る限り、かなりの増補・改訂ということになります。この紹介どおりなら、今まで新和英大を持っていた人にとっても、今回のアプリ版は間違いなく「買い」です。KODを常用している方は、そちらで済むとも言えますが……

 

4. 物書堂アプリ「電子増補版まえがき」(2007年)

さて、問題なのは、その物書堂アプリ版で「付録」から読むことのできる「電子増補版まえがき」の内容です。

2004 年春の KOD (Kenkyusha Online Dictionary 研究社オンライン辞書検索サービス) の開始以来, その収録辞典の 1 つである『新和英大辞典』(第 5 版) は『KOD 和英』として文字通り日進月歩, その収載情報量を着実に増やしてきましたが, このたび研究社創業 100 年記念事業の一環として, 2003 年夏の出版以来積み重ねてきた新語・追加用例約 35,000 項目を第 5 版の本体に追加し, 合計約 51 万 5 千項目の増補版を実現いたしました.

しかも、これの日付は2007年7月となっています。つまり、この「電子増補版まえがき」は、今回の物書堂アプリで増補された内容――製品紹介ページにあるタイミングの内容――ではなく、今から14年も前の「電子増補版まえがき」なのです。ということは、EPWING版/LogoVista版(2004-2005年)から、今回の物書堂アプリ版(2021年)までの間に、「電子増補版」というものが存在することになるわけです。

改めて年代別に並べ替えると、こうなります。

書籍版『研究社新和英大 第5版』(2003年)
 ↓
EPWING版/LogoVista版『研究社新和英大 第5版』(2004、2005年)
 ↓
電子増補版(2007年)
 ↓
物書堂アプリ(2021年)

さて、この「電子増補版」という言い方、電子辞書端末をまめにチェックしてきた方には見覚えがあるかもしれません。かつてのセイコーインツルメントの製品カタログなどを見ると、研究社新和英は『研究社新和英大辞典 電子増補版』と紹介されていたからです。

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こんな感じですね。

実際、たとえば「ブログ炎上」など――「電子増補版まえがき」に載っている例です――は、EPWING版/LogoVista版では見つからず、私の手元にあるDX-F10000改には載っています。

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「電子増補版」というのは、おそらくこれのことなのでしょう。

ところが、残念なことにこのSII製品には、「まえがき」も「電子増補版まえがき」も収録されていないので、その辺の状況を確かめることができません。これまでに電子増補が何回あったのかも不明です。

今までにも何回か書いたり言ったりしてますが、辞書を電子化する際に、まえがきとか収録語数とか、そういう情報をばっさり落としてしまうのは、非常に遺憾でイカンです。

おそらく、この辺の推移について関山先生などはお詳しいと思うので、ぜひ正確なところを伺ってみたいものです。

ということで、物書堂アプリ版『研究社新和英大辞典 第5版』は、1/16まで絶賛セール中です!