1/29に開催された「翻訳フォーラム式辞書デー」のフォロー記事をぼつぼつ書いていこうと思います。
まずは、今からでもそろうEPWING*1辞書データの話です。
ここでご紹介するデータを、辞書ソフト「EBWin4」に登録すれば、十分とはいえないものの、一定の辞書環境ができあがります。しかも、EBWin4ならネット辞書も登録できるので、LogoVistaや物書堂を補完する環境くらいにはなりそうです。
●『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)
もうそろそろ入手不可かと思ってリストなどからは外してしまったこともあるのですが、2022年2月1日現在、まだ入手できます。三大英和大辞典の一角。メジャーな英和辞典のなかでは、ほぼ唯一の生き残りです。
他のプラットフォームでは、LogoVista版、物書堂版があります。オンラインはなし。
●『ビジネス技術実用英語大辞典V6』(プロジェクトポトス)
Amazonでも取り扱いはありますが、できれば、↑ の先にある直販サイトからご購入ください。オンラインではジャパンナレッジの「パーソナル+R」コースで使えます。
現在、通常の手段で手に入る有料版の辞書はこれだけです。EPWINGが「絶滅危惧種」だというのがお分かりいただけるでしょう。ここからは、無料で公開されているデータです。
なお、無料ですから、もちろん特に利用上の制限などはありませんが、これからご紹介するのはすべて大久保克彦さんという方が、あくまでも自分の趣味の一環として――とご本人が繰り返しおっしゃっています――作成・公開しているものです。私たちの仕事は、そういう方たちにも支えられているということを、折にふれて思い出したいものです。
●『WordNet 3.1 EPWING』
WordNet EPWING ~~ 日本語・英語WordNet(シソーラス)のEPWING版 ~~
WordNetについての細かい説明は、旧ブログで検索してください。「シソーラスにもなり、上位語・下位語などのカテゴリもながめられる英英辞典」です。
●『Wiktionary EPWING』
Lailaps ~~ 英仏独伊西Wiktionary & Project GutenbergのEPWINGほか ~~
Wiki形式、つまりユーザー投稿による英語辞書ですが、それなりに信頼できると思っています。タイトルで分かるように、英語のみならず仏独伊西の4言語版もあります。
●『EPWING バイブルパック』
●『EPWING シェイクスピアパック』
聖書とシェイクスピアをEPWINGで検索できるという、とてもありがたいデータ。私はこれしか使っていませんが、サイトのタイトルでわかるように、ここにはラテン語とかギリシャ語とか、古典語関係のEPWINGデータがたくさんそろっています。
●『EPWING 青空文庫』
青空文庫に収録されている作品がEPWINGになっています! 文学作品として読むなら、もっと書籍っぽく見えたりするインターフェースが各種ありますが、青空WINGがあれば、昭和初期までの文学作品を、たとえばコロケーションのデータベースとして活用できます。
翻訳では現代日本語のコロケーションを調べることのほうが多いので、ふだんは少納言やNINJAL-LWP for BCCWJがありますが、あるいは『てにをは辞典』でいいわけですが、少し古くても確かな日本語を確かめたいときには重宝します。
有料、無料をあわせても、現在手に入るEPWINGデータはこんなところです。ただし、Amazonや各種オークションやメルカリなどを探していると、今でもけっこうEPWINGデータは出品されていたりします*2。
以下のような辞典をよく見かけます。
『リーダーズ』(第2版、第3版とも)
『リーダーズプラス』(たいていは ↑ とセット)
『E-DIC 英和|和英 第2版』
『新編 英和活用』
『研究社 英和中辞典 第七版』
『広辞苑』(第4版か第5版)
このうち、『E-DIC 英和|和英 第2版』についても、旧ブログに記事があります。
*1:最近はご存じない方も増えたので、いちおう脚注を付けておきます。EPWINGとは、かつて主流だった辞書データの標準規格のこと。このデータをDDWin、Jamming、Logophile、EPWING、digregateといった辞書閲覧ソフト、いわゆる "汎用辞書ブラウザ" に登録すれば、複数の辞書を串刺し検索できた。仕事歴が一定以上の翻訳者は、辞書環境をほぼこれですべてそろえているはず。だが、データ自体を自由にコピーできる仕様だったことから、おそらくはライセンス無視の共用が横行したため、各出版社が次々とこの規格での提供をやめてしまった。ごく最近までは、日外アソシエーツが専門辞書を中心にEPWING辞書の販売を続けていたが、同社も2021年に販売サイトを閉鎖している。【2022/2/3追記 日外アソシエーツのサイトについては、新しい記事を参照】
*2:脚注1で書いたように、EPWINGデータは何の制限もなくコピーが可能。したがって、こういうところで見つかるの「データを確保したうえで商品自体は売却しよう」という発想で出品された商品なのかもしれません。それを考えると、少なくとも今も販売されている商品についてはこうした出品に手を出さず、正規のルートで買うべきでしょう。ここでは、すでに売られなくなった辞書のみを考えることにします。