先日、XXX won't help you understand YYY という英文を、私が「XXXはYYYを理解する妨げになる」と訳したところ、
なぜ「助けにならない」くらいのマイナスではなく、「妨げになる」と強いマイナスの訳になるのか?
と質問されました。自分なりにはそれでいいと言える文脈だったのですが、根拠を示すことができず、そのときは「文脈と内容からそう訳した」と、ちょっとお茶を濁してしまいました。その半日くらい後に、ある本を再読していたら偶然、do not help を「強い否定」に解釈できることを補強してくれる記述に出くわしました。
つまり、その本は一度うなずきながら読んだはずなのに、読んだことは忘れて、あるパターンをこう訳せるということだけが記憶に残っていたようです。
いや、もしかしたら、そこで読んだのとは別に、今までの経験から自分なりにそういう訳出パターンを導き出していたのかもしれません。
翻訳経験の蓄積ってたぶんそういうものです。自分で考えて訳した、何かで読んだり見聞きしたりした……そういう経験が一体となって翻訳者を作っている―。
改めてそう考えると、世に数多く出ている翻訳指南書のうち、
翻訳するときに要注意の単語や表現
をまとめた本は、自分の経験不足を補ってくれる格好の資料なのだと再認識しました。
- まず一度は通読する
- 手元に置いておき、ときどきぱらぱらめくって眺める
- リファレンスとして使う
一粒で三度おいしい。文字どおり必携の本です。
そんな本をまとめて紹介しておきます。ええ、もちろんアフィリエイト稼ぎ狙いですともw
●『英和翻訳基本辞典』(宮脇孝雄、研究社、2013年)
書籍のみ、索引なし。見出し語総数472。
定番中の定番ですね。索引はないのですが、ありがたいことに、越前敏弥さんが全項目の見出しのみを、Jammingで使えるテキストデータにしてくださり 、それをさらに、EPWINGジェダイこと大久保克彦さんがEPWINGにしてくださいました。項目と簡単な内容が出るだけですが、書籍のページ数がわかるので、通読した後でリファレンスとして使うときには便利です。
同じ著者の『翻訳の基本』(2000年)と『続・翻訳の基本――素直な訳文の作り方』(2010年)も併せておすすめ。こちらの2冊はKindle版も出ています。
●『新装版 英和翻訳表現辞典』(中村保男、研究社、2019年)
書籍のみ、索引なし。
今回ご紹介しているなかでは、最も「辞典っぽい」体裁です。新装版は2019年の刊行ですが、初代から考えると歴史もいちばん長いシリーズ。
3冊本が出る(1978~1982年) → 合本になる(1984年) → その合本を正編として『続・英和翻訳表現辞典』が出る(1994年) → 正編と続編を合わせた『新編 英和翻訳表現辞典』が出る(2002年)
という紆余曲折を経て今の形になりました。2002年の新編と、いま出ている新装版の内容は同じです。ただし、3冊本や正・続の内容と現在の内容では多少の削除や追加があるので、中村保男ファンの方はぜんぶそろえてみるのも一興です。
↑ 興が乗った人w
●『改訂増補版』(河野一郎、DHC、2017年)
書籍のみ、索引あり。見出し語総数約1,000。
こちらも元本は2002年の発行ですが、まる1章分、 60個の表現について増補されているので、買うならこちらを。
これも書籍版だけなので、私は索引をスキャンしてそこからEPWINGデータを作り、ページだけ調べられるようにしてリファレンスにしています。上記の見出し語数は、私がそのEPWINGを作ったときのデータです。
このEPWINGデータを使いたい方がいらっしゃったら、コメント欄で、もしくはメールアドレスをご存じの方はメールでご連絡ください。もちろん、書籍がないと何の訳にも立たないデータです。
●『日本人なら必ず誤訳する英文 決定版』(越前敏弥、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2019年)
●『日本人なら必ず悪訳する英文』(越前敏弥、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年)
どちらもKindle版あり、索引なし。
タイトルが似てますが、 どっちから読んでもOKです ^^
「誤訳する」のほうは、『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文』(2009年)と『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 リベンジ編』(2014年)の合本です。かつて英語の講師をなさっていた越前さんならではの語り口が魅力。
●『英単語のあぶない常識』(山岡洋一、ちくま新書、2002年)
Kindle版あり、索引なし。
最後になりましたが、実は今回いちばん紹介したかったのはこの一冊。冒頭で紹介した
do not help
が載っていたのも、実はこの本でした。
新書版ということもあり、取り上げられている項目は33と最も少ないのですが、山岡さん自身が用例からひろって分析的に考察なさっています。そのプロセスが圧巻なのです。
ほかにもこういう本はありますが、ひとまず、私の手元にあるものからご紹介しました。