# 『意味変語彙力帳』をネタに国語辞典を比較

すこし前に書店で見つけて、こんな本を買っていました。

意味変語彙力帳

意味変語彙力帳

  • 総合法令出版
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結論からいうと少し期待外れだったのですが、せっかくなので、この本をネタにして手元の国語辞典を比較して遊んでみました。

  • ●発端
  • ●調査方法
  • ●あらためて分かった各辞典の特徴
  • ●『意味変語彙力帳』のいちばん残念なところ
  • ●その他、雑感
●発端

単語や成句を自分が間違って覚えていないか、使っていないかという不安は常にあるものです。いえ、常にそう警戒していなければなりません。そこで、ときどきこういう本を確認して、危なそうな項目は自分のチェックリストに追加しています。

この本は、いつ頃からか意味や使い方が変化した語について、変化後の意味や使い方(これを本書では「意味変」と呼んでいる)と、本来の意味や使い方(本書では「本意味」)を並べて説明していくという体裁になっています。ただし、「意味変」のほうを「間違っている」と断じるのではなく、あくまでも「こういう風に意味や使い方が変わってきているので気をつけましょう」くらいのスタンスです。取り上げられているのは、本編の100項目と、簡略にまとめてある追加分をあわせて全156項目。執筆に当たって参考にした辞書は、

  • 小学館『日本国語大辞典』第二版
  • 小学館『デジタル大辞泉』
  • 三省堂『大辞林』第四版
  • 岩波書店『広辞苑』第七版
  • 三省堂『三省堂国語辞典』第八版

だということです(「凡例 本書について」より)。

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# 『イーロン・マスク』超高速翻訳の舞台裏~翻訳フォーラム・おうちでレクチャー第2弾~

翻訳フォーラムがオンラインでお送りする「おうちでレクチャー」シリーズ。

高橋さきのさんの『アカデミック・フレーズバンク』を取り上げた第1弾は先月、盛況のうちに終了しました。

第2弾はこちら、4月20日です。

『イーロン・マスク』超高速翻訳の舞台裏
(翻訳フォーラム・おうちでレクチャー②)

ネタになる本は、もちろんこちら。

世界同時発売に向けて数々の制限――納期は超短期差し替えもたびたび発生、不自由この上ないファイル形式――があるなか、自転車レースの鍛錬も欠かさない超鉄人翻訳者・井口耕二さんが、この限界をどう乗り越えたのか!

そんな裏話がたくさん聞けます。

2011年に出た『スティーブ・ジョブズ』のときも、かなり無茶苦茶のスケジュールだったそうですが、今回はそれを上回る過酷なマラソンだったと伺っていますが、私もそれ以上のことは知りません。お話を聞くのが楽しみです。

5月6日までの約2週間、アーカイブ配信もあります。

 

# exploit について

IT系の文脈、特にセキュリティ関連の内容に慣れている人なら、今さら何ということのないこの単語ですが、見慣れない人にとってはなかなか厄介なようです。

Along with the tremendous progress in Internet technology in the last few decades, the sophistication of the exploits and thereby the threats to computer systems have also equally increased.

このように名詞としても使われ、同じ文章のすぐ次のパラグラフには動詞としても出現します。

Threat is a potential risk that exploits a vulnerability to infringe security and cause probable damage/disruption to ...

三大英和大辞典*1にも、わりと新しく改訂された英和学習辞典*2にも載っていません。

英辞郎には載っています。こういうところはさすがに得意。

1.〈俗〉《コ》セキュリティー上の弱点、突破口◆【語源】もとハッカー用語。システムに侵入[を攻撃]したいハッカーから見ての「偉業、すごいこと、うまい抜け道」 ⇒ 一般人から見て「不具合、まずいバグ」
2.《コ》セキュリティー上の弱点を突く手段[ツール]

ただし、名詞だけです。手持ち辞書のレパートリーがないと、このくらいで手詰まりかもしれません。

*1:いうまでもなく、『新英和大辞典 第6版』『ランダムハウス英和大辞典 第2版』『ジーニアス英和大辞典』のこと

*2:『ジーニアス英和辞典 第6版』『ライトハウス英和辞典 第7版』。『ウィズダム 第4版』は2018年なのでやや古くなりつつありますね。

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# アビリティ・インタービジネス・ソリューションズのスクール開講

私がフェロー・アカデミーで「IT・マーケティング」というコース(中級、上級)を担当していることはだいぶ知られていると思います。

実はそれ以外にも、広島に本社を置く翻訳会社、アビリティ・インタービジネス・ソリューションズで毎年開講しているスクールもあるので、ご紹介しておきたいと思います。

www.a-ibs.com

「翻訳者育成」というコース名のとおり、こちらはフェローのように分野に特化しているわけではなく、また産業翻訳の実務に即した内容になっているのが特長です。よくあるように課題文はもちろん扱うのですが、それと並行して

  • 日本語ライティングの注意点
  • 辞書の使い方
  • 調べもののコツ

といった実務的な点も学習していきます。また、私だけでなく、この会社のベテランコーディネーターによる授業とか、英語ネイティブの講師による授業もカリキュラムに組み込まれています。

ご興味のある方は、上のサイトにある問い合わせ先までご連絡ください。今年の開講は4月25日(木)です。

# 「通訳翻訳ジャーナル」2024年春号、雑感

久しぶりに、イカロス出版の「通訳翻訳ジャーナル」に記事を書きました。表紙でわかるとおり、辞書と調べものの特集です。

私の記事はpp.24~27。おすすめ辞書の一覧も、2024年1月時点の価格情報付きでどーんと載せていただきました。その価格情報も含めて、これから辞書環境をそろえるなら、という観点でまとめてあります。

ただし、しっかり読んでいただきたいのは「辞書環境を再考する」と題したセクションです。私自身も、辞書環境については考え方が少しずつ変わってきています。今の時点で私が考えていることを書いてみました。

ところで、同誌のpp.42~43には、読者アンケートの結果から、「翻訳者の愛用辞書」というランキングが載っているのですが、ここでちょっと気になることがありました。

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# 英語の月名をカタカナで書いてみる

ふと思いついた、しょーもない話です。

毎年、年末になるとビックカメラが1枚カレンダーを配ってるので、この数年はトイレにそれを貼ってる。毎月の月名のところには、「睦月、如月、弥生……」という陰暦時代の旧称と、英語の月名、そしてそのカタカナが書かれている。

ジャニュアリー
フェブラリー
マーチ
エイプリル
メイ
ジューン
ジュライ
オーガスト
セプテンバー
オクトーバー
ノーベンバー
ディセンバー

こうして並べてみると、日本語のなかでは定着していないカタカナのほうが多いのか……と改めて気づいた。

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#『校閲至極』日記、その12

昨日は、9日に行ったばかりの旧岩崎邸庭園を再訪しました。

旧岩崎邸庭園には、本館のほかに撞球室というのが建っていて、本館とその撞球室はなんと地下道でつながっています。地下道も撞球室内部もふだんは非公開なのですが、毎月15日に開かれるガイド付きツアーに参加すると見られるということが分かりました。これは行くしかない、とさっそく再訪した次第。

興味のある方は、公式サイトの案内をご覧ください。

www.tokyo-park.or.jp

このページにある【地下・撞球室ガイド】のセクションです。

さて、昨年から続けてきたこの「『校閲至極』日記」も、きりのいい12回の今回で最終回です。

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