# 辞書ポータル比較の詳細

昨日の記事

baldhatter.hatenablog.com

は、レーダーチャートをご紹介するところまでだったので、引き続き各ポータルについて評価の詳細と感想を書いておきます。

なお、念のため評価に使った数字を書いておきます。Excel のレーダーチャートの特性により、「1」は事実上「0」です。最高点は、当初「5」としていたのですが、1=0 となったため便宜的に「6」に引き上げました。まあ、いずれにしても私の印象評価なので、たいした差ではないのですが……

8カテゴリー、各6点満点なので、48点満点です。

コトバンク

総合点は26点

国語は、『デジタル大辞泉』に『精選版 日本国語大辞典』が入っているのでいちおう「3」。英和・和英と英英は皆無なので「0」。学習英和・和英は「小学館プログレッシブ」だけ入っているので「2」です。意外と他言語が入っていて「4」。

コトバンクでいちばん良いのは、何といっても百科系と「その他」でしょう。収録辞書一覧はこちらにありますが、このページで「現代用語」から始まるセクションは、書き切れないくらい雑多な辞典・事典が入っています。というと、Weblioに似ているように聞こえますが、決定的な違いがあります。それは、Weblioと違って、出自の怪しいデータは使われていないということ。出版社のほかは、官庁や信頼できそうな企業だけです。

なお、いつの間にか有料サービスが始まっていて、1週間100円1か月350円です。無料のまま使っていると、まず広告ブロック機能をオフにしろと言われ、オフにすると広告が出ます。しかも、常時表示されているバナー広告のほか、ページを開いた直後には、一定時間流れる動画広告が出てくることもあります。

goo辞書

総合点は13点

これはもう、『使い方の分かる 類語例解辞典』が無料で使えるという、その一点だけで採用しているようなものです。学習英和・和英は「小学館プログレッシブ」が入っているので「2」ですが、その他ほとんどの項目が「1」です。『使い方の分かる 類語例解辞典』は、ジャパンナレッジにも入っているので、そちらをお使いなら、ブックマークもしておかなくてよさそうです。

Weblio

総合点は19点20点

国語は『デジタル大辞泉』のみなので「2」。英和・和英は意外にも『斎藤和英』が入ってるので「3」、学習英和・和英は、『研究社英和中辞典』(後述)と、ベネッセの『Eゲイト英和』が入っているので「3」としました。『Eゲイト英和』のイメージ表示(前置詞など)はなかかな秀逸です。英英は当然「1」。他言語は、よく見たら『白水社 中国語辞典』とか、日中韓辭典研究所の辞書なども入っているので、「1」ではなく「2」を付けてもよかったですね(総合点を19→20にしたのはそのためです)。

それから、雑多な情報源があるのでいちおう「6」としましたが、信頼性の点では上記のコトバンクよりはるかに劣るので、同じ「6」ではあっても、だいぶオマケした内容です。

それから、今回調べていてあらためてWeblioの編集方針は信用ならんなあと実感したことがあります。『研究社英和中辞典』は収録されているのですが、どこを見てもそれが何版なんだか書いてないのでした。手元の第5版(1985年)、6版(1994年)、7版(2003年)とつき合わせてみましたが、第6版のようです(Internet は載っていないが email は載っている)。そういう情報をきちんと載せないところが、やっぱりイカンなあと思うわけです。

ちなみに、

Weblioに収録されている「新英和中辞典」は何版ですか?

と、ChatGPTとGeminiに訊いてみたら、いろいろと大嘘が返ってきましたw

ChatGPTの回答:https://chatgpt.com/share/bdee801c-af4c-4891-8a26-b372aa3c1e53

Geminiの回答:https://g.co/gemini/share/445713c33434

ここまでの3つは無料版でした(ただし、コトバンクとWeblioには有料サービスもある)。ここから先は有料版です。

KODスタンダード

総合点は15点

総合点としては意外と低い数字になってしまいます。かつては『スーパー大辞林 3.0』が入っていましたが、今は国語系が皆無になってしまったので「1」です。そのほか、他言語や百科系、その他が「1」ですし、英英もOALDが追加オプションとして用意されているだけなので「2」としています。。

もちろん、KODは研究社の英語辞典を使えるところに価値があるのですから、それ以外が低いのは当然なのですが、では英語はどうかというと、研究社のタイトルしかないというのは、総合的に見ればもの足りないともいえるので「4」どまり。学習英和・和英は、『コンパスローズ』と『新英和中辞典』、さらに『ルミナス英和辞典 第2版』が使えるので、わりと高めです。

KOD アドバンスト

総合点は20点

スタンダードとの違いは、英和・和英に『新編英和活用』が入ったので「4」から「5」に。あとは専門系が少し増えるので「その他」が「4」になるなどです。

繰り返しますが、KODは研究社の英語系辞典に特化したサイトなので、総合点が低くなるのはやむをえません。ではあるのですが、なくなった『スーパー大辞林 3.0』の穴を埋める努力はしてほしかったと思います。いっそのこと、『ローマ字で引く 国語辞典』を入れてみたらどうでしょう。そうなったら、国語の項目が一気に「3」にはなります(個人の感想です)。

また、英英もオプションのみではなく標準で少しは用意してほしいところです。まあ、英英の多くは専用サイトを無料で使えるので、しかたないのかもしれません。

それから、「EV」というラベルで示される追加語彙ですが、これの更新ペースが、OxfordやMerriam-Websterと比べるといかんせん遅い。ここ、もう少しがんばってください、研究社さん!

DONGRI

総合点は26点

これだけはタイトルごとのサブスクリプションなので、コストパフォーマンスまで考えると同列で比較することはできないのかもしれません。

言うまでもなく、国語辞典と学習英和・和英の充実度は圧倒的で、どちらも「6」。一方、英和・和英(一般)も他言語もいっさいないので「1」ですが、もともとDONGRIが中高生を対象としたプラットフォームであることを考えると、これはどうにもなりません。その点を割り引けば、小型国語辞典と学習英和・和英については、今のところ最強のプラットフォームといえます(物書堂を除く)。

JKパーソナル

総合点は32点

国語は『日本国語大辞典』と『デジタル大辞泉』だけしかありませんが、国語2というカテゴリーに入る類語辞典がだいぶ充実しています。英和・和英は『ランダムハウス英和大 第2版』のみですが、オンラインでRHD2を使えるのはもはやここしかないので、その稀少性を考慮して「3」としています。英英と他言語もそこそこですが、学習英和・和英が「プログレッシブ」のみと貧弱です。

そして、他を圧しているのはやはり百科系と「その他」です。しかも、コトバンクの「その他」以上に、専門語系でアテになることが多い。なくてはならない、と思うゆえんです。

ジャパンナレッジパーソナルR

総合点は36点

スタンダードですでにだいぶ充実しているので、総合点での差は4点しかありません。『ビジネス技術実用英語大辞典 V6』、通称「うんのさん」が加わるので英和・和英は「4」に上がります。『オックスフォード 英語コロケーション』と『オックスフォード類語辞典』が増えるので英英も「4」に上がりますが、ただしこの2点は英語版オリジナルではなく日本語版です。ちょっと残念。他言語のタイトルもだいぶ増えます。

こうしてみると、ジャパンナレッジでまったく足りていないのが、小型国語辞典と学習英和・和英です。実は、ジャパンナレッジには、私たちが使える「パーソナル」「パーソナルR」のほかに、学校矢図書館が契約する「ジャパンナレッジLib」と、もうひとつ教育機関対象にした「ジャパンナレッジSchool」というコースがあって、こちらなら、この不満がだいぶ解消されます。『岩波国語辞典 第八版』と『現代国語例解辞典 第五版が』増えるからです。また、学習英和でも『コンパスローズ』が追加されます(それでも、Schoolを謳うのにこれだけではまだ貧弱という気がします!)。

 

このように、結局のところ辞書ポータルサービスは、どれかひとつですべて足りるというわけにはとてもいかないのが現状です。翻訳者として使うなら、KOD、ジャパンナレッジ、DONGRIをすべて契約するしかないかもしれません。けっこうな支出になりますが、辞書は私たち翻訳者にとって商売道具であり、

商売道具にお金をかけるのは当然

という割り切りは必要です。投資の元が取れるくらい、使い倒せばいいだけでしょう。

 

さて、最後は辞書ポータルではありませんが、「ひとつのプラットフォームでそろう最強の環境」ということで比較のために物書堂も並べてみました。

物書堂

総合点は39点

"圧倒的じゃないか(以下自粛)" という銀河万丈の声が聞こえてきそうです。

小型国語辞典と類語辞典や漢和辞典の充実ぶりで、国語も国語2も満点の「6」。英和・和英についても、三大英和がすべてそろう唯一のプラットフォームということで「6」。学習英和・和英も主要なタイトルはすべてまかなえるので「6」、他言語も「6」です。

見劣りするのは百科系と「その他」ですが、これはたとえばコトバンクで補えるかもしません(でも、たぶん足りない)。