紙の辞書は、当たり前ですが、自分で引こうとしたとおりに引くことができます。ただし、見出しから引く以外の使い方はまず不可能です(細かい索引が付いた類語辞典などは除く)。
一方、電子的な辞書*1は、いろいろなオプションを使える反面、ときどき思いがけない挙動を示すことがあります。バグのこともありますが、たいていは仕様です。今回は、そんな一例をご紹介します。
どうでもいいような話ですが、ジャパンナレッジと物書堂それぞれの使い方にも触れています、念のため。
きっかけは、わたしがFacebookでつながっているある方の投稿。特撮やアニメなどの映像作品に出てくる「○○博士」の画像をコラージュした画像の投稿でした(5月7日が「博士の日」なんだそうです)。死神博士とか、水爆を愛しすぎちゃった博士とか、クマの姿をした博士とか、「みんなアカン奴ばっかりや!」という言葉とともに総勢33人が登場します*2。
そこで、創作作品のタイトルやキャラクターがやたらと載っている『大辞泉プラス』だったら、
○○博士
という項目がどのくらい載ってるんだろうと思って調べてみたら、意外な挙動に気づいたという話です。
『デジタル大辞泉プラス』、わたしの使える環境では
- ジャパンナレッジ収録版
- 物書堂版『デジタル大辞泉』収録版
の2種類が使えます*3。
ただ、物書堂版では『大辞泉プラス』のみを検索することができないので、今回はどちらも『デジタル大辞泉』+『大辞泉プラス』という条件で引いてみました。
ジャパンナレッジ版での検索方法と検索結果
今回は「○○博士」を引きたいので、[基本検索]ではなく[詳細(個別)検索]を使い、条件を[後方一致]にして「博士」と入力します。画像で示すと、こうです。

「すべてのコンテンツ」のままだったので、かなりの数がヒットしますが、その状態から左側にある[検索コンテンツ]カラムを使ってコンテンツを絞り込みます。


このように、目的のコンテンツをクリックすれば絞り込めるようになってます。これ、覚えておきましょう(すべてに戻したいときは[リセット]ボタン)。
35+33=68件がヒットしました。
物書堂版での検索方法と検索結果
物書堂版でも、同じように検索方法を[後方]にして「博士」を検索すると――

こうなって、検索結果は46件でした(『デジタル大辞泉』と『大辞泉プラス』の合計)。
両者を比較してみる
ということで、ジャパンナレッジ版では68件、物書堂版では46件と、実に22件もの差が出ました。もしかしたらジャパンナレッジ版のほうがデータが新しい? そうかもしれませんが、まだわかりません。
ジャパンナレッジをお使いの方は試してみるとわかりますが、検索結果はそもそも並び順が物書堂版と違います。五十音順にもなっていません。

これは、ジャパンナレッジの結果表示がデフォルトでは[関連度順]になっているからです。そこで、これを[見出し語 昇順]に切り替えてみると、ようやく五十音順になります。※ついでに、表示する数もデフォルトの[20件]から[100件]に変えています。

おわかりでしょうか。ジャパンナレッジのほうは、「○○博士」ではない項目、「赤髯王の呪い」「あなたは誰?」「家蝿とカナリア」などまでヒットしています。
この時点で、ミステリー小説に詳しい方はピンとくるのかもしれません。わたしは不勉強でまったく知りませんでしたが、実はこれらは「○○博士」というシリーズ名でひとくくりにされる作品なんだそうです。
赤髯王の呪い
フランスの作家ポール・アルテの長編ミステリー(1995)。原題《La Malédiction de Barberousse》。「犯罪学者アラン・ツイスト博士」シリーズ。
あなたは誰?
米国の作家ヘレン・マクロイのミステリー小説(1942)。原題《Who's Calling?》。「精神科医ウィリング博士」シリーズの第4作。
つまり、ジャパンナレッジのほうは、「○○博士」という見出しだけではなく、本文中に「○○博士」というシリーズ名が含まれる作品名まで見つけるという、ある意味、お節介なことをしているようなのです。ただし、これは「本文中まで検索した」つまり「全文検索」したわけではありません。冒頭に載せた画像のとおり、[範囲]は[見出し]でした。
インデックスというしくみ
では、なんでこんなことになったかというと、これが辞書・事典などのコンテンツを検索するときの「インデックス」というしくみです。インデックスとは索引のことなので、本に付ける索引をイメージしてください。たとえば上の「赤髯王の呪い」という項目を、どんな索引から引けるようにしたいかと考えると、
- 赤髯王の呪い
というフルの見出しはもちろん、
- 赤髭
- 王
- 呪い
といった単語を索引に立てて、そこからも引けるようにしたいかもしれません。ジャパンナレッジで、実際のインデックス(索引)がどう設定されているかは不明ですが、少なくとも、シリーズ名の「犯罪学者アラン・ツイスト博士」から見つけられるように、
- 博士(後方一致)
- 博士(部分一致)
も索引として用意されていたということになります。
一方、物書堂版の『デジタル大辞泉』(プラスを含む)は、厳密に見出しの後方一致のみを検索しているため、博士シリーズの19件と、「構造くん」「ゴーカスター」「UFOリンゴと宇宙ネコ」の3件、計22件分の差が出たわけです。
このように、電子的な辞書は、同じように検索しても、インデックスの作り方しだいで検索結果の出方が変わるという特性があります。細かい違いは別にしても「そういう違いがある」ということだけは理解しておいたほうがよさそうです。
余談―大辞泉プラスの採用基準はよくわからない
ここからは、なかば余談です。双方に載っている項目をある程度まで整理してみました。まず、『デジタル大辞泉』本体に載っている35項目のうち
- 「博士」(はくし、はかせ)は一般語。
- 「医博士」「易博士」などは、律令政治の時代からある古い日本語。そのほか、以下もほとんどは歴史関係の用語で、すべて『デジタル大辞泉』本体の項目:
医博士、易博士、音博士、陰陽博士、寛政の三博士、紀伝博士、国の博士、国博士、音博士、暦の博士、五経博士、算博士、四部の博士、書博士、呪禁博士、助博士、天文博士、東方の三博士、時守博士、節博士、書博士、明経博士、明法博士、文章博士、易博士、暦博士、漏刻博士。これで27項目。 - おもしろいのは、「三振博士」「三振法務博士」。昭和な匂いがぷんぷんする俗語です。意味は―興味のある方は調べてみてください。
- 残る3項目だけが固有名詞です。『蛭川博士』は大下宇陀児の長編推理小説、『ファウスト博士』はトマス・マンの小説、『フォースタス博士』は17世紀イギリスのマーローによる戯曲。
さて、よくわからないのが『大辞泉プラス』の採用基準です。007シリーズの全タイトルとか、有名どころの怪獣の名前とか、たぶん編集者の好みですよね。
- 「○○博士」シリーズで採用されているミステリーは、「犯罪学者アラン・ツイスト」と「精神科医ウィリング博士」だけ*4。すべて、2018年4月に追加されている。
- 「精神科医ウィリング博士」シリーズのうち、立項されている『幽霊の2/3』『割れたひづめ』『読後焼却のこと』の3作品については「第○作」という情報がない。※調べてみたら、それぞれ第11、12、13作だった。そして、『悪意の夜』という第10作があるはずなのだが、なぜかこれは立項されていない!
- 「犯罪学者アラン・ツイスト」シリーズのほうも、『赤髯王の呪い』には「第○作」という情報がない。第7作らしい。載せるなら徹底してほしい。
- 文芸系で、まず納得できるのは『カリガリ博士』と『ブラッドマネー博士』で、前者は有名な1919年のドイツ映画。後者は「フィリップ・K・ディック『ドクター・ブラッドマネー/博士の血の贖い』の別邦題」ということで、昔のサンリオ文庫版がこのタイトル。この2つは、更新が2011年と2012年なので、おそらく『大辞泉プラス』でもわりと初期に追加された模様。
- 固有名詞としては、「ガルガリ博士」が「NHKの子供向けテレビ番組『ピコピコポン』(1987年放映開始)に登場するキャラクター」なんだとか。知らんかった。「蜃気楼博士」は「NHKのテレビドラマ「少年ドラマシリーズ」の作品のひとつ。放映は1978年1月。原作:都筑道夫の同名小説」だそうで、これも知らんかった。どちらも、2012年に追加されているので、その時期にNHK関係がまとめて追加されたんだろうか。
- そのほかの固有名詞は3つ。「迷宮博士(ドクター・ラビリンス)」(日本の演劇作品。劇団カムカムミニキーナの旗揚げ公演として、1990年に初演)、「UFOリンゴと宇宙ネコ」(エムナマエによる児童文学作品。2002年に『宇宙からきたネコ博士』に改題)。
- 残った項目がちょっとおもしろい。いずれも、いろいろな都道府県にある公共施設のマスコットキャラクターということで、2019~2021年あたりに追加されている。ザリガニ博士、ジオ博士、ひとはく博士、まがり博士、ワニ博士などがいるらしい。

「ザリガニ博士」は、わが埼玉県のキャラクターらしいので、そのうち会いにいってみよう^^
そして、こんな不思議なラインアップのなかでひときわ光る項目がひとつ。それが、これ!
トイレット博士
とりいかずよしによる漫画作品。うんこ研究者のトイレット博士や、主人公の一郎太が通う小学校の担任教師、スナミ先生を中心とするメタクソ団の仲間たちの活躍を描く、ナンセンス・ギャグ漫画。1969年、『週刊少年ジャンプ』にて読み切り短編として発表。1970年から1977年まで連載。ジャンプコミックス全30巻。[2022年02月更新]
NHKとか公共施設の関連語ならまだしも、これはかなり異色だと思ったわけです。でも、このレベルが載っているんだったら、死神博士とかレオナルド博士あたりも載ってていいと思うんですよね~。
*1:今回の定義。「電子的な辞書」とは、独立した端末として使われるいわゆる「電子辞書」だけではなく、CD-ROMやDVD-ROMベースの辞書、ネット上の辞書サービス、モバイルアプリなど、電子的な形態の辞書すべてを指してています。
*2:画像を引用すれば簡単なんですが、いちおう遠慮しました。興味がある方は、https://www.facebook.com/akihiko.kikawa.5 をご覧ください。
*3:コトバンクでも使えますが、ここで書いたような条件の指定ができません。
*4:ちなみに、「~博士」というシリーズタイトルの作品がほかにあるのかどうか、各種の生成AIに訊いてみたが、満足できる回答は得られなかった。