一期一会、二束三文、四捨五入、六道、七転八倒……
一文なし、二の句が継げない、三人寄れば文殊の知恵……
こんな風に数字を使った熟語や慣用句が、日本語にはたくさんあります。ライティングの本や用字用語集などに、付録として載せられていることはよくありますが、独立した本になっているものはあまり多くないようです。
先週、こんな辞典を買ってきました。
2024年5月発行ですが、「新装版」とあるとおり元本は1999年(平成11年)に出ています。「序」によると、さらにさかのぼった1980年に著者は『名数数詞辞典』というのを出しており、その発展版が本書だということです。
ちなみに「名数」とは
①上に一定の数をそえて、同類のすぐれたものをまとめていう呼び方。「三筆」「四天王」「八景」など。
②単位の名称や助数詞のついた数。「一個」「二軒」「三回」など。【明鏡三】
で、本書もまさにそういう語句が集めた辞典……というだけだったら、買ってこなかったかもしれません。本書に収録されている語句は、ざっと項目を眺めただけでも、
零戦、ゼロ・メートル地帯、二・二六事件、怪人二十面相……
といった百科項目や、
ツー・ショット、一DK、ゴルフの世界四大競技……
のような最近の世俗を反映した言葉までカバーしているのです。
また、数字を使った表現といえば、だいたい「一から十」までの数字をイメージしますが、本書の範囲はもっと上の数字まで及びます。
また、同じ「2」でも、「二・双・相・並・両・ツー」など多岐のわたる要素から拾っています。たとえば、上にもあげた「ツー・ショット」の説明はこうです。
two+shot 和製英語。男女が二人でいること。「アベック(avec 仏語)」ともいう。有料サービスで、知らない男女が直接交渉してデートに及ぶような風俗営業のこと。
語義分類まではされていませんが、2種類の意味が載っています。この後半の用法、わたしは知りませんでした。『デジタル大辞泉』ではこうなっています。
1 男優と女優が、二人でいる場面。
2 (男女が)二人で写っている写真。転じて、(男女が)二人だけでいること。
3 有料電話サービスの一。互いに見知らぬ男女が一対一で会話をするもの。ツーショットダイヤル。
[補説]2、3は日本語での用法。
そっか、もともとは映画やドラマの用語でしたね。そして、「ツーショットダイヤル」なら見かけたことあるかも。
という風に、ときどき眺めるだけでも楽しいし、実際にリファレンスとしても役に立ちそうです。
本書でひとつ残念なのは「新装版」についての序文がないこと。「序」として載っているのは、1999年発行の元本当時の文章だけで、今回の「新装」に当たってどんな語句を追加したのかといった更新状況が不明なのです。
そもそも、その「序」にも「凡例」についても、どんな範囲の語句を収録したとかとう方針についての記述が少なく、ちょっと損をしている気がします。版元の東京堂出版の紹介ページにもその辺のことは書かれていません。
独特な辞典・事典を発行していることで定評のある東京堂出版さんとしては、いささか残念です。
というか、そもそも日本の辞書界は全体的に、改訂時の更新情報をあまりしっかり伝えない、残さない傾向があります。この問題についても、いずれ書いてみたいと思います。