昨日は別の記事を書くだけでいっぱいだったので、プログラム紹介がいったん途切れてしまいました。今日はその20です。
毎年、数は多くないのですが、ソースクライアントの中の人が登場するプログラムもあります。タイトルからも想像できるとおり、またプログラム概要にも書かれているように、主に日英翻訳を中心に、そのソースとなる日本語をどう書くかという話です。
登壇者は、ヤマハ(の発動機ではなく楽器・音響機器のほうですね)の石川秀明さん。
情報の発信元である製品サービスの提供者は、自動で翻訳されることを前提に情報を出すことを意識する必要がある。(中略)翻訳元原稿となる日本語原稿の段階で高いレベルの品質を保ち、英語に翻訳しやすい原稿を安定して提供できる仕組みを構築することで、誤訳されにくい情報となる。この講演では、自動翻訳時代を生き抜くための日本語原稿の管理について考えていく。
日英翻訳は、「日日英翻訳」とよく言われるくらい、「日日」に置き換える段階つまりソースの日本語のおかしな部分を適切な日本語に直すプロセスが必要です。人間が翻訳するときでさえそうなのですから、日英の機械翻訳ならなおさらです。
はい、そこ!
「日英」、「機械翻訳」、「ソースクライアント」という単語を見てこの記事を閉じようとしました? いやいやお待ちください。ちょっと考えればわかりますが、これって日英翻訳する方にも役に立ちそうですよね。誤訳されにくい日本語、つまり意味がしっかり通じる日本語の話なんですから。ということは、日本語を出力するとき、つまり英日翻訳のときとか、場合によっては日本語ライティングのヒントもきっとあるということです。日英翻訳を発注する立場の方にストレートに届く内容であることは言うまでもありません。
ところで――という接続詞を使いつつ、いったんページを区切りますが、今回はぜひ続きもお読みください。
今回の翻訳祭でも機械翻訳(MT)とか生成AIの話はしっかりプログラムに盛り込まれています。タイトルにそういうキーワードが出てくるものだけでも、
- MTPE時代に、訳し、働き、食うための実務的アイデア(井口耕二さん)
- LLM翻訳の最前線:多言語・話し言葉・文学の翻訳とその評価について(永田昌明さん)
- 情報を「つかう」「つたえる」視点で考えるAI翻訳活用法(中村哲三さん)
- 自動翻訳時代を生き抜くための日本語原稿の品質管理(石川秀明さん)
これだけあります。ただし、このうち仕組みそのものについての話は「LLM*1」のプログラムだけで、それ以外は、
MTやAI とどう付き合うか
あるいは、いかにうまく活用するかという話が中心です(井口さんの話は、「いかに避けるか」かもしれせん)。「MTとかAI はものすごく進化したので、どんどん業務に取り入れて効率化しましょう」という話はありません。いろいろと考えてプログラムを選考していった結果、こうなりました。
逆に、スポンサープログラムは会場 and/or オンデマンドをあわせて10プログラムあります(同一企業も含む)が、そのうち実に7プログラムに「AI」が登場します。
これが、いまの日本の翻訳業界のうそ偽らざる現状なんだと思います。
- 翻訳を売る企業は、MTやAI を抜きには絶対に話が進まない
- 発注するソースクライアントも当然、MTやAI が念頭にある
- 売る側・発注する側でも、現場の人は適切な活用を考えている
- 翻訳者は、安易に流されず、翻訳の本質と自分生き方を考えなければならない
今年の翻訳祭、テーマは「文化」「ことば」に寄っているように見えますが、その一方でこういう最新情報についてそれぞれのプレイヤーが考えるべきテーマをちゃんと取り上げています。翻訳者も翻訳会社も、そういう世界で
自分の進む道を自覚的に考えなければならない
そのためのヒントが、どのプログラムにも詰まっていると思っています。
さて、ここからはまったくの余談。もう閉じてくださってもかまいません^^;
本プログラムの登壇者である石川秀明さんは、実はばりばりのギタリストでもあります。ご本人のTwitter(現X)のプロフィールページを貼っておきます。
テレキャス持った写真がカッコイイ~
翻訳祭に単独でご登壇いただくのは今回が初めてですが、実は少し前まで翻訳祭実行委員会のメンバーでもありました。また、TCシンポジウムなどでお目にかかることもあります。そういうとき、とてもいいノリで話ができるので、わたしのなかでは「ヒデさん」です。
*1:Large Language Model(大規模言語モデル)。生成AI などの核となる技術のこと。