ご案内していた翻訳フォーラムのイベント「比べて極める辞書の世界」が終わりました。個人的には、見坊さん・稲川さんとのフリートークをとても楽しませていただきました。
ご参加の皆さんにもご満足いただけたようであれば幸いです(アンケート結果待ち中)。
ご参加くださった方は、1月3日までアーカイブ視聴ができますので、年末年始のご多忙な時間の合間にでも、ぜひご覧ください。
さて、そのイベントでお伝えした内容に小さくない間違いがあったので、ご報告して訂正いたします。配布した資料のほうは修正しませんので、以下の情報とあわせて読み替えてください。
間違いがあったのは、配布資料の18ページ、19ページです(アーカイブ録画上では、スライド番号19と20、動画の再生時間では57:08くらいからの箇所)。
お題のひとつで取り上げたcurateという単語について、『ジーニアス英和辞典 第6版』(G6)では、
動詞の語義が、書籍版には載っていて
電子版には載っていない
とお伝えしました。問題のスライドを載せます。
ところが、アンケートのなかで「私のG6書籍版には動詞の語義が載っていない」とご報告くださった方がいて、それで今回のミスに気づいた次第です。ご報告くださった方、ありがとうございます!
なにを間違えたかというと、スライド19にある書籍からの貼り付け画像は、
G6ではなく、G5のものだった
のでした。
あらためて、G6書籍版を貼り付けると(今度は間違いありません^^;)、こうなっています。
名詞しか載っていないのは、電子版と同じなんでした。
ちなみに、G6とG5の書籍を並べてみると、
こんななので、取り違えても無理はなかったのでした。いやいや、申し訳ございませんでした。日本海溝より深くお詫びいたします。
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ということで、ここまでがお詫びなのですが、これで終わってしまっては「比べて極める」というタイトルに対して名前負けもはなはだしいというもの。もう少し話を続けます。
さて、G6でcurateの動詞としての語義が消えたということは、「ジーニアス英和辞典の編纂者が、動詞の語義は不要と判断した」のでしょうか。あまり使われなくなった単語や語義が改訂のとき削除されるのは普通のことですが、今回はそうではなさそうです。
動詞 curate の語義は、配布資料の17ページにも書いたように、「ウィズダム4」や「コンパスローズ」など競合する辞書にも載っていますし、今回は紹介しませんでしたが、主な英英辞典のほとんどが採用しているからです。
実は、細かい話なのでセミナーでは触れなかった点があります。G6 の電子版(物書堂、LogoVista、DONGRI)をお持ちの方は、もう一度 curate を引いてみてください。私はLogoVista版を持っていないので、物書堂版とDONGRI版を以下に貼ります。
上が物書堂版。下がDONGRI版です。
よく見ると、違いがあることに気づきます。DONGRI版には、名詞だけでなく、動詞の発音情報が載っているのです。
私が最初に違和感を持ったのは、ここでした。え、動詞の語義がないのに動詞の発音情報だけ載ってるの? ってことは電子版のデータに何か欠落がある?
そう思って調べていたせいで、「書籍版にあった情報が電子版で欠落したのでは?」という先入観が生まれ、それがG6とG5を取り違える原因になったのだと思います。
ということで、間違いは訂正しましたが、書籍版と電子版で何らかの情報欠落があるらしいという疑惑は残ったままということです。
ちなみに、「ジーニアス英和辞典」での curate の変遷を見ると、こうなっています。
- G2:名詞のみ
- G3:名詞のみ
- G4:「〈展示など〉を企画する」という意味で動詞を追加
- G5:動詞に2つ目の語義として「〈ウェブ上の情報・コンテンツ〉を収集整理し付加価値を付ける」が加わる
- G6:動詞の語義が消える
辞書部屋チャンネルの見坊さんと稲川さんが登場なさったとき、『新明解国語辞典』の版違い、それどころか刷違いまでそろえいてるという話が出ました。私はさすがにそこまでのコレクターではありませんが、ジーニアスとかウィズダムのようなめぼしい辞典は、できるだけ版違いもそろえるようにしています。
こんな風に、版による違いを見ると、ある単語の変遷が分かってなかなかおもしろいですし、その変化が訳語のヒントになることもあります。