前エントリでおおむねの見方は説明しましたが、もう少しWordNetの威力が分かる事例を挙げてみます。
お題は、マーケティング系のお悩み単語ナンバーワン、insight です。
語義が 4 つもあります。おそらく、どの辞書より細かい(OEDを除く)。
それぞれの語義だけでなく、synset(類義語グループ)と上位語(hype)にも注目してください。
1 clear or deep perception of a situation
[syn: penetration]
[n. hype] perception
2 a feeling of understanding
[syn: perceptiveness, perceptivity]
[n. hype] sensibility
3 the clear (and often sudden) understanding of a complex situation
[syn: brainstorm, brainwave]
[n. hype] understanding, apprehension, discernment, savvy
4 grasping the inner nature of things intuitively
[syn: sixth sense]
[n. hype] intuition
というか、むしろ語義の説明文だけではピンとこなくても、synset と hype の情報もあわせて見ると違いが見えてくると思いませんか?
1 の語義は penetration(貫くこと)と同グループに分類され、上位概念は perception(感覚)
2 の語義は perceptiveness(知覚)と同グループに分類され、上位概念は sensibility(感覚、感度)
3 の語義は brainstorm(ここでは、いわゆる"ブレスト"ではなく「ひらめき」)、と同グループに分類され、上位概念は understanding(理解)とか discernment(認識)
4 の語義は sixth sense(第六感)と同グループに分類され、上位概念は intuition(直観)
つまり、insight というのは
貫くような感覚・知覚に属し、理解でもあり認識でもあり直観的なひらめきでもある……
そんな単語なんだという像がぼんやりと浮かんできます。それぞれの上位語 Hypernym もちゃんと読めば、さらに輪郭が見えてくるかもしれません。
こんな広い概念を包括しているからこそ、日本語のどんな言葉を当てはめてみてもスッキリしない……ということになるんじゃないか。そんなことが分かってくるわけです。
だからといって、最終兵器「インサイト」でなんでも済ませればいいということではなく、こういう曖昧模糊とした多義語だからこそ、文脈に合わせた言葉を見つける必要がある―ということで、この単語が出るたびに悩まされることに変わりはないのかもしれません。
それでも、悩む方向性は見えやすくなった気がしませんか?