# 英辞郎を紹介していない理由

フェロー・アカデミーで半定期的に公開されている、私の辞書セミナー。www.fellow-academy.com

録画配信形式なのでリアルタイムの質疑応答はありませんが、受講者特典として、1回の受講につき1回だけ講師つまり私に直接質問ができることになっています。たいていは、わりと具体的な質問をいただくのですが、今回は

「講座で英辞郎に触れていないのはなぜか」

という質問をいただきました。ごもっともな質問です^^; いい機会なので、記事にしておくことにしました。

答えは簡単、

「英辞郎は辞書ではない」

からです。

これは、別に私が英辞郎をdisっているとか、そういうことではありません。意外に思った方は、「英辞郎 on the WEB」のヘルプを見てみてください。

「英辞郎」について:ご利用ガイド:英辞郎 on the WEB

最初にちゃんと、こう書いてあります。

1. 「英辞郎」とは
EDP(Electronic Dictionary Project)が制作する英和・和英対訳データベースです。

日本語版Wikipediaの記事でもこの定義が引用されています。

また、このヘルプページ全体で「辞書」「辞典」を検索してみるとわかりますが、英辞郎が自らを「辞書」「辞典」と名乗っていることはほぼありません。あまり知られていないようですが、この点はとても重要です。

 

「対訳データベース」ということは、つまり英語と日本語が(単語、句、文などの単位で)ペアになって収録されているわけです。それはそれで、高い利用価値があるでしょう。しかし、データベースに辞書の特性を求めてはいけません。逆もしかりです。

では、「英和・和英対訳データベース」と英和辞典・和英辞典とはどう違うのでしょうか。これは、自分で英和辞典と英辞郎とを引き比べてみてほしいのですが、一例だけ挙げておきます。

find という基本語を、英辞郎(無料版)と、コトバンクに収録されている『プログレッシブ英和辞典』で比べてみます。

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これが英辞郎。

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これが『プログレッシブ』です(クリックで拡大)。

語義や用法の解説や詳しさがだいぶ違いますし、用例の示し方も違います。英辞郎ではこの後に用例がまとめて並べられていますが、用例は意味・用法とあわせて示さないと意味がありません

ただし、英辞郎でも項目によってはもっと "辞書っぽい" 作りになっているものもあります(アルクに入ってから特にそうなった気がします)。少しずつ辞書に近づいていくのかもしれません。

上の比較を見て、もし「英辞郎のほうが意味を探しやすい」と感じた方は要注意かもしれません。そういう人は、
「対訳集」で「訳語を見つける」
という意識で "辞書を引いて" いる可能性が高いからです。

そういう引き方をしている人が英辞郎だけに頼っていると、原文の文脈に合っていない訳語を持ってきてしてしまう、という罠に陥ります。某トライアルでも、そういう例をたくさん見かけます。

そうならないために「辞書を読む」「用例までしっかり読み込む」ことが必要だという話を、私はフェローの辞書セミナーでお伝えしようとしているわけです。

逆に言うと、しっかり辞書を使いこなせる人が、対訳データベースという性質を理解したうえで英辞郎を使うなら、それは有効な活用になるかもしれません。

 

なお、英辞郎については、2018年の12月に、JACET(大学英語教育学会)英語辞書研究会でお話ししたことがあります。

sites.google.com

そのとき使った資料も公開することにしたので、英辞郎の長所短所など、詳しい話はそちらをご覧ください。

drive.google.com